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宮内庁依頼 飼育実績執筆 “蚕人生”総仕上げへ 御蚕所前主任・佐藤さん

11年間の飼育実績を報告書にまとめる佐藤さん
11年間の飼育実績を報告書にまとめる佐藤さん

皇居の紅葉山御養蚕所主任を六月一日に退任した前橋市元総社町の佐藤好祐さん(78)が、宮内庁の依頼を受け、十一年間の飼育実績をまとめる報告書の作成に取り組んでいる。独自に改良した飼育法などを同庁の資料として書き残し、自らの“蚕人生”の総仕上げにしようと、連日筆を走らせている。

佐藤さんは県蚕業試験場などに勤め、同場長で定年退職。一九九六年に御養蚕所飼育担当で最上位の職である主任に就任した。前任者の急逝を受けたもので、引き継ぎ作業がなく、佐藤さんは「伝統を残しつつも、新しい飼育方法を随所に取り入れた。群馬のやり方を数多く提案した」という。

日本古来の蚕品種「小石丸」の飼育では、平らなかごで飼う昔ながらの「蚕箔育(さんぱくいく)」から大型飼育台で飼う「条桑育」に切り替え、独自に工夫した回転まぶしに上じょうぞく蔟させて、収繭量を四十キロから百三十キロに増やした。

半面、一部の蚕は昔ながらの飼育法で飼い続けた上、一般農家では使われなくなった旧式の「わらまぶし」の製作を宮中で初めて行うなど、伝統の維持と復活にも力を入れた。

こうした近代化と伝統が調和した飼育法を資料として残すため、報告書を作成することになった。佐藤さんは飼育中の日記をもとに、蚕の飼育量や成長の状況などの飼育実績、独自改良の飼育法、それらに対する考察などを文章にしている。十月初めまでに仕上げる予定。

退任の辞令を受けた日、佐藤さんは皇后さまからの贈り物を、女官長から手渡された。クワの葉と実を描いた置物だった。「お気遣いに大変感激した。歴史ある地で蚕人生を終えられ、私は幸せ」と胸を熱くした。

今後は旧官営富岡製糸場などの世界遺産登録運動にも協力していくという。

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