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「富岡製糸場と絹産業遺産群」Web

《記憶をつなぐ 時代をつむぐ 哲学塾鼎談から(中)》 地域の豊かさめぐりフォーラム

出席者
  • 内山 節(立教大学大学院教授、哲学)
  • 大熊 孝(新潟大学教授、河川工学)
  • 鬼頭秀一(東京大学教授、環境倫理)
上州人の豊かな創造力について語り合う(右から)内山さん、大熊さん、鬼頭さん
上州人の豊かな創造力について語り合う(右から)内山さん、大熊さん、鬼頭さん

本県の養蚕、製糸、織物の絹産業遺産群が形作られた江戸時代末から明治時代。鼎談(ていだん)では、この時代の人たちが仕事や地域の問題に深くかかわる中で、豊かな創造力や柔軟な発想を発揮していたとの指摘があった。

大熊さんは、かつては地域住民が、それぞれの地域で治水事業に積極的に加わっていたことを紹介したうえで、「地域の人たちが治水にかかわっていたときは、素晴らしいアイデアがあった。苦しい面もあったのだろうけれど、明らかに楽しんでいた」と発言。

鬼頭さんは「養蚕技術でいえば、たくさんの人が技術の担い手として活動しており、創造的にかかわっていた」と述べ、現在の藤岡市で高山長五郎が発案した養蚕法「清温育」など新しい養蚕技術が本県で生み出されたことも、豊かな創造力の表れとの見方を示した。

しかし、現代人が、絹遺産群を作り上げたころの人々が持っていた創造力や柔軟な発想を失いつつあるだけでなく、そうしたものを発揮できる場さえも失いつつあることも事実。

大熊さんは「戦後、治水は国任せで、地域の人がかかわらなくなってきた。その結果、楽しささもなくなったし、治水が地域の人の手を離れ、一体何が行われているのかも分からなくなってしまった」と発言。地域住民のかかわりが薄れたことの弊害とした。

内山さんは、和菓子製造工場で、和菓子を作るという最も創造的な部分を産業ロボットが行い、人間が箱詰めなどの単純作業を行っている例を紹介。「一日中働いて、疲れ果ててしまうこともある。だが、その中でも創造力を発揮する場があれば、終わったときに自分の力になっていると感じられる。今の時代、逆になっている」と述べ、こうした現実が、働く喜びまで奪っている可能性を示した。

こうした現実の中で、現代人が失いつつあるものを取り戻そうとするとき、肝心なのが、人と仕事や地域とのかかわりだ。 鬼頭さんは「富岡製糸場の近代技術は、組合製糸を支えた伝統的な座繰りの技術があり、その担い手がいなければ定着しなかっただろう」と語り、上州座繰りの技術とその担い手であった地域の人の力が、日本の近代化の中で重要な役割を果たしていたとした。

内山さんは「江戸時代まではしっかりとしていた地域共同体は、明治にかけて壊れてしまったように見えるが、一方でそれを再生していく動きもあった。その中で人間同士が結び付いて、創造力を発揮していた。今、そういうことが必要なのではないか」と述べ、人と人、地域と人の結び付きが求められているとの考えを示した。

(6月24日、高崎哲学堂)

富岡製糸場(富岡市) 田島弥平旧宅(伊勢崎市) 高山社跡(藤岡市) 荒船風穴(下仁田町)