養蚕の信仰一冊に 安中の阪本さん 農家の取り組み紹介
- 掲載日
- 2008/03/29
「養蠶の神々―養蚕信仰の民俗」
近世末から昭和にかけての養蚕の民俗信仰を紹介する「養蠶(かいこ)の神々―養蚕信仰の民俗」を、安中市下間仁田の前安中市文化財調査委員会議長、阪本英一さん(75)がまとめた。本県を中心に東北各県から京都府まで全国各地を巡って調査し、掘り起こした記録であり、蚕糸業が衰退を余儀なくされるなか、個々の農家が実際にどんな思いで養蚕に取り組んできたのかを知る貴重な資料となっている。
蚕は飼育が難しく、当たり外れが多いことから、養蚕農家は「養蚕の神」に豊蚕を切実な思いで祈った。全国屈指の養蚕県である群馬では、古くから各地でさまざまな養蚕信仰が広まった。
同書では蚕神を、神道系、仏教系、民間信仰―などに分類し、多くの写真を使って説明している。
神道系としては、蚕影信仰、仏教系は馬鳴菩薩(めみょうぼさつ)信仰、絹笠信仰など、民間信仰ではオシラサン信仰などを詳しく紹介。
この中で、金田一京助らの研究で知られるオシラサン信仰について、関東と東北の二種あり、大きく違っていると指摘。本県のオシラサンは家ごとの信仰で「養蚕の神信仰」以外の信仰はないのに対し、東北のオシラサンは養蚕とのかかわりを明確に示す事例がみられず「蚕神としての実態は曖昧(あいまい)だった」と記している。
「調査は、養蚕農家の視線に近い姿勢をと心がけた」と語る阪本さん
阪本さんは養蚕が盛んで、明治期に組合製糸「碓氷社」がつくられた安中市の養蚕農家の長男として生まれ、「物心ついたころから蚕に囲まれて」育った。
中学校の教員を経て県立歴史博物館に勤務していたころから民俗調査の中で、県内の養蚕信仰に関心を持ち、以後、三十数年にわたって各地を巡り、「養蚕農家の視線」で調査や資料収集に当たった。
阪本さんは「信仰の伝承もあいまいになるなか、消え去ってしまう前にと書きとめた。中間報告であり、これからの本格的な研究の一助になれば」と話している。
四六判、四百八十二ページ、県文化事業振興会発行。五千円。