《NEWSレクチャー》 蚕糸・絹業提携に新補助制度 養蚕存続へ正念場危機を逆手「純国産」で 期間は3年
- 掲載日
- 2008/06/02
養蚕農家や製糸、織物業者らをグループ化して支援する国の新たな補助制度「蚕糸・絹業提携支援緊急対策事業」を受けて、県内にもグループ結成の動きが広まっている。自治体や絹製品の卸売業者などが中心となり、これまでに1グループが承認を受け、2グループが近く承認される見込み。今後は絹製品に国産繭が使われていることを明確に示し、「国産ブランド」を確立できるかが鍵となる。新制度の補助金支給が確約されているのは3年間。その間に産業としての自立が求められている。
全国の呉服店に「日本の絹」マークを付けた反物が並んでいる。国内の織物業者が織った証明だが、原料の繭が国産であるかどうかは示していない。
ところが消費者の多くは「日本の絹」マークを見ると、国産繭で作ったものと誤解してしまう。これが国産繭を使う織物業者の悩みの種で、「群馬の絹」活性化研究会の江原毅会長は、「国産の希少性が下がってしまっている」と嘆く。
ブランド化
新制度のグループ化には、この誤解を解く対策が盛り込まれている。グループには必ず養蚕農家が加わり、その繭を使う製糸、織物、流通業者らグループ全体に、使う繭量に応じた補助金を支給する仕組み。グループが生産する絹製品は国産繭が使われていることが保証され、工夫次第では高価なブランド品に仕立てることができる。
「グループ化は、養蚕が極度に衰退した今だからこそ実現が可能になった」。碓氷製糸農業協同組合(安中市松井田町新堀)の高村育也組合長は語る。国産繭の差別化は長年の課題だったが、かつて国内市場には国産繭と輸入繭が混在し、区別できなかった。現在は全国の養蚕農家が千百六十一戸、県内は四百七十一戸にまで減ったことで、国産の繭の流れを「グループ化」で把握することができるようになった。「繭が国産であることをはっきり示し、付加価値を付ければ、輸入品との価格競争にさらされずにすむ」。高村組合長は、農家減少の危機を逆手にとった新制度に期待を寄せている。
世界遺産へ
さらに本県の蚕糸絹業には、追い風が吹いている。旧官営富岡製糸場を中心とする絹産業遺産群の世界遺産登録運動だ。県産の絹製品には将来“世界遺産”という付加価値が加わる可能性がある。
富岡製糸場がある富岡市は五月、市内の養蚕農家二十二戸と製糸、加工業者らで富岡シルクブランド協議会を設立、新制度の承認を受けて絹製品を生産・販売する予定だ。同市教委世界遺産推進課は「富岡製糸場を支えた絹産業がなくなっては困る。製糸場が世界遺産になることで、地元絹製品の価値が高まってほしい」と期待する。
離農加速も
だが、課題は少なくない。新制度が補助金を確約しているのは三年間。補助の打ち切り前にもう一度制度を見直す予定だが、不安に感じる農家が養蚕をやめてしまうおそれもある。養蚕業には大きな試練だが、県蚕糸園芸課は新制度を歓迎している。「小規模でも自立した蚕糸・絹業を育成するチャンス」とみているからだ。
従来の制度は、養蚕農家の収入の約九割が補助金という手厚いものだったが、それでも養蚕農家は減り続けた。新規就業者はほとんどなく、存続の危機を迎えている。「すべての絹産業を守り、再発展させるのはもはや不可能。新制度を生かして、規模は小さくても自立できるグループを育てることが蚕糸・絹業を残す道」。同課の狩野寿作絹主監は苦しい現状を説明する。
承認されたグループは、国産・世界遺産ブランドを確立し、輸入品と差別化した商品を高値で販売できるのだろうか。また、明治以降の近代化を支えた絹の営みは、次世代へ引き継がれるのだろうか。蚕糸・絹業は正念場を迎えている。