《三山春秋》
- 掲載日
- 2011/05/09
下仁田町南野牧の「荒船風穴(ふうけつ)」までたどり着くと、それまでの蒸し暑さはうせ、ひんやりとした空気が体を包んだ▼岩の間から吹き出る冷気を使って蚕種(蚕の卵)を冷やした「天然の冷蔵庫」の威力を昨年夏、初めて体感した時の新鮮な驚きは忘れられない▼この現象に注目したのが地元の庭屋静太郎、千寿親子だった。1905(明治38)年、土蔵式の蚕種貯蔵施設を建設。蚕種を木箱に入れて保管することでふ化を遅らせることができ、養蚕の複数回化が可能になった▼施設を3基に増やして日本最大の収容能力となり、全国33府県から委託を受けた。やがて電気による冷蔵の普及で利用されなくなるが、世界遺産登録を目指す「富岡製糸場と絹産業遺産群」の一つに挙げられ、養蚕の近代化を推進した貴重な文化財として注目されるようになった▼日本絹の里(高崎市)の特別展「群馬の風穴と蚕種」で、荒船風穴の復元模型やその歴史資料が紹介されている(23日まで)。3層構造による優れた温度調整技術にあらためて目を見張らされる▼福島第1原発事故以後、自然エネルギーへの関心が高まっている。政府は、新成長戦略のエネルギー政策を見直し、原発に過度に依存しない電力確保を目指す方針を固めた(5日付本紙)。自然の力を巧みに取り込んだ先人の知恵と工夫に学ぶものは多い。