地域の熱意 高い評価 世界遺産登録へ前進 専門家がパネルディスカッション
- 掲載日
- 2011/11/05
海外の専門家を招いて開かれたパネルディスカッション=10月31日、前橋・県公社総合ビル
パネリストは、イコモスカナダ会長のディヌ・ブンバルさん、同ハンガリー事務局長のタマシュ・フェヤルディさん、国際産業遺産保存委員会理事のマッシモ・プレイテさん(イタリア)、県世界遺産学術委員会委員長の岡田保良さん(国士舘大教授)、県世界遺産推進課長の松浦利隆さんの5人。コーディネーターは、日本イコモス国内委員会理事の苅谷勇雅さんが務めた。
■「非常に有望」
海外3人の専門家は、いずれも昨年に続く2度目の出席。まず今回の印象についてブンバルさんが「(構成資産のある)地元と県、国がそれぞれ力を合わせている。大きな進歩を感じる」と前回と比較しながら語った。フェヤルディさんも「取り組みはしっかり組織化され、効率的に進められている。構成資産は整理整頓されており、非常に有望だ」と同意。プレイテさんは「他のケースと比べてたいへん素晴らしい」と、取り組みを高く評価した。
続いて出席者は、世界遺産の保存、活用方法について自国の例を挙げながら説明。ブンバルさんは小説「赤毛のアン」で知られるカナダのノバスカシア州の世界遺産登録運動に触れ、「推薦、登録を果たすには、多くの人の力が必要だ。地域住民のネットワークを構築し、遺跡にどんな意味や価値があるのか、話し合いの中から明確にすべき」と語った。
フェヤルディさんはハンガリーで今年、世界遺産法が制定され、遺産の保存活動の支援に力を入れていることを紹介。「学校が建てられるなど、構成資産から外された地域でも、プラス効果がある」と周辺地域にもたらしたメリットに触れた。
また、土地の値段の上昇など、登録後の地元住民への影響について、地元自治体が若い世帯に古い住宅を与えて集落にとどまれるよう配慮していることを説明した。
これを受けて、県世界遺産学術委員会委員長の岡田さんは、「世界遺産としての価値を維持発展させることが大切で、市民にもしっかりとした監視体制も含めて保存活動を持続させてほしい」と要望した。
松浦さんは「登録運動の中で地元が遺産、遺跡、文化財を守っていこうと取り組んでいる。こうした熱心な活動が、私たちの大きな推進力になっている」と、地域が登録運動を支えていることを挙げた。
■価値観の交流
最後に海外の3人がメッセージを発信。「次の世代に歴史や人の営みを伝えるべきで、自分ができる貢献策を見つけて前進して」(ブンバルさん)、「世界遺産登録は、遺産の魅力を享受する一つの手段で目的ではない。自分の意志にそぐわない内容になったとしても、熱意を失わず同じように努力してほしい」(フェヤルディさん)、「富岡の資産は、人間の価値観の交流という思想をほかのどれよりも強く伝えている。幸運を祈っている」(プレイテさん)とエールを送った。
こうした発言を踏まえ、苅谷さんは「この1年間で、世界遺産の登録へ向けた取り組みが大きく進んだことが分かった。保存、活用を考えていくには、今まで以上に地域住民や地方自治体の役割が大きくなっている。非常に希望を持ったいい機会になった」と締めくくった。