《新時代のまちづくり 12市のビジョン》 富岡市 製糸場核に地域発展 世界遺産登録見据え整備
- 掲載日
- 2012/01/13
上州富岡駅周辺は世界遺産登録を視野に玄関口として一変する
旧官営富岡製糸場の世界遺産登録に向けた県の推薦書提出を今夏に控える富岡市。登録への道筋が見えてきたことで、製糸場を核にしたまちづくりの加速が期待される。上州富岡駅の改装などハード面の整備に加え、ソフト面でも安全安心を高める取り組みを進め、「世界遺産を持つのにふさわしい町」への下地作りを急ぐ。
◎文化財保存 れんが保護へ耐震対策工事
1872(明治5)年の創業当初の姿をほぼそのまま残す旧官営富岡製糸場の東繭倉庫は、緑色のシートに覆われている。長さ104・4メートル、高さ14・8メートルの威容を見ることはできない。
観光のハイシーズンを終えた昨年12月、耐震対策工事のため、建物をシートで覆った。木製の桁とれんがの間にできた最大2センチほどの隙間をモルタルで埋める。大規模地震でれんがが落下することを防ぐ。工期は今年3月末までの見込み。
赤れんがの巨大な建物は見どころの一つで、残念そうな観光客も少なくない。敷地西側に同様の西繭倉庫があるとはいえ、観光面で工事は痛手だ。 だが、世界遺産まちづくり部は登録を見据え「今後も増えていく見学者の安全を考えた工事。観光振興と遺産保護との両方を追求して、次世代に製糸場をバトンタッチしなければならない」との考えで臨んでいる。
公立富岡総合病院で行われた多数傷病者対応訓練
◎市街地活性化 生まれ変わる上州富岡駅
路地が残る製糸場周辺の商店街に観光客の目を向け、回遊性を高めることも待ったなしの課題。同部は「(登録の可否決定が見込まれる)2014年という目標ができた。好機を逃さないように下地づくりをしていく」と意気込む。
製糸場の玄関口となる上信電鉄上州富岡駅周辺は、まったく別の顔に変わり始める。今夏にも着工になる新駅舎は、全国からの設計提案に基づき、れんがを生かした姿になる。駅前から西に伸びる市道は対面交通に向けた整備が続く。
駅周辺に関わる事業は県、市、上信電鉄が連携して取り組んでいる。市はワークショップなどの形で市民を事業に巻き込み、官民協同で新たな玄関口づくりを進める考えだ。
◎高齢者福祉 事業者と連携日常「見守り」製糸場を核にしたまちづくりと同時に市が重視しているのが安全安心のまちづくり。昨年5月に高齢者安心ネットワークを設立した。高齢者の日常的な変化に早期に気づけるように、新聞配達業者や郵便局、コンビニエンスストアなどの協力者を募っている。
各種団体への働き掛けを続けており、今年は地域を挙げた「見守り」が本格的に始まる年になりそうだ。
ネットワークとリンクする形で、高齢者を含む幅広い世代が集まる「ふれあいの居場所づくり」も進める。設置場所や活動内容などは市民自身で考えることを重視し、1月22日から3月までに3回、勉強会を開く。健康福祉部は「地域のつながりを取り戻す場にしたい」としている。
◎わがまちの防災 災害医療の強化へ訓練「変化に向けた仕込みの1年にしたい」と話す岡野光利市長
―2012年は市にとってどんな年か。
次のステップ、変化に向けた「仕込み」をする年と思っている。昨年は自分が市長になって一つの方向性が示せたと思う。
生活する人の立場から考えて進めるのが施策の柱で、高齢者安心ネットワークの構築ができたことと「ふれあいの居場所づくり」の準備が進んだことが大きな一歩になった。高度成長の前、地域には互いに助け合っていく仕組みがあった。富岡にはまだベースが残っている。ネットワークや居場所づくりで、仕組みを復活していきたい。今年は活動が具体的に動きだしていく。
―製糸場は今夏にも推薦書提出が見込まれている。
ようやく市民に具体的な道筋が見えるようになってきた。14年にも見込まれる世界遺産登録が自分たちの生活にどういう良い影響があるのか、考え始めるようになったのではないか。市全体で製糸場周辺の中心地活性化に取り組んでいく仕組みづくりの準備に入っている。
市民がより一層、製糸場を身近に感じられるように、イベントを増やすなどして製糸場に入りやすくする対策も考えていく。(緊急時に)一斉放送できるシステムなど安全面の確保やトイレの整備など来場者へのサービスもきちんとしないといけない。
―昨年の市民満足度調査で商業や工業、雇用の評価が低かった。
正直ショックだった。工業では企業誘致と並行して、既存の企業が活力を持ってもらうような情報提供などに力を入れたい。
製糸場周辺の中心地をみると、路地が多く残り、飲食店が密集している。訪れる人を引きつける要素が潜んでいる特殊なまちだと思う。夜だけでなく、昼間行っても楽しめる場所にできればと思う。
見学者の安全確保に向け、耐震対策工事が進む旧官営富岡製糸場