シルクカントリー双書発刊イベント 絹遺産の未来考える 講演、シンポ多面的に 前橋・上毛ホール
- 掲載日
- 2012/02/12
本県の絹遺産を未来につなぐ方策を話し合ったシンポジウム=上毛ホール
シルクカントリー双書の発刊記念イベント「富岡製糸場 未来へ」(上毛新聞社主催)が11日、前橋市古市町の本社上毛ホールで開かれた。世界遺産登録を目指す富岡製糸場(富岡市)を中心に本県の絹産業遺産を将来につなげていく方策を、講演やシンポジウムを通して多面的に考えた。
初めに同双書第7巻「南三社と富岡製糸場」を執筆した富岡製糸場総合研究センター所長の今井幹夫さんが講演。富岡製糸場は1872(明治5)年に、全国に器械製糸を広める模範工場として造られたが、県内では養蚕農家による在来の座繰りによる組合製糸の碓氷社、甘楽社、下仁田社(総称・南三社)があり、当初普及しなかったことを指摘。明治初期の生糸生産量は、南三社が官営富岡製糸場をはるかにしのぎ、「当時の農家が米国の生糸相場まで見て出荷する先見性があった」と先人の偉業をたたえた。 「写真集 富岡製糸場」(片倉工業発行)の撮影を担当した前橋市出身の建築写真家、吉田敬子さんがスライド上映しながら、四季折々のエピソードを披露。「富岡製糸場は創業当時に近い状態で残っている。本物を見て、文化や歴史を感じてほしい」と語った。
2部のシンポジウムは藤井浩上毛新聞社論説委員長をコーディネーターに「『富岡製糸場事典』の可能性」と題して討論。世界遺産候補「富岡製糸場と絹産業遺産群」の登録運動を進める民間団体で、事典を執筆した富岡製糸場世界遺産伝道師協会の近藤功会長と今井さん、吉田さんらパネリスト5人が本県には絹産業に関わった先人の歴史があり、県民一人一人が歴史を自覚して次代に語り継ぎ、地域づくりに生かしていく大切さを示した。
近藤さんは「産業遺産は価値が分かりにくいため、県民に向けて大切さを伝えていきたい」とし、事典も81項目を分かりやすく見開き2ページで解説していることを紹介。パネリストで協会メンバーの笠原実さんは「絹遺産を意識して見ると、地域の歴史や誇りが分かる」と語った。
会場では、協会による遺産群のパネル展示や上州座繰りの実演が行われた。繭から細い糸を引く座繰りが来場者の関心を集めた。