シルクカントリー双書発刊イベント 県民に自信と誇り 絹遺産 世界へ発信 富岡製糸場 未来へ
- 掲載日
- 2012/02/18
シルクカントリー双書の第7、8巻の発刊記念イベント「富岡製糸場 未来へ」(上毛新聞社主催)が、前橋市古市町の本社上毛ホールで開かれた。2部構成で執筆者による講演やシンポジウムなどを行い、世界遺産登録を目指す富岡製糸場(富岡市)を核とした地域の絹産業遺産を県民がどう守り、将来に引き継いでいくかを多面的に考えた。
シンポジウム「『富岡製糸場事典』の可能性」では、パネリスト5人がそれぞれの立場から絹遺産を未来につなげていく方策を語った。
▼パネリスト
- 近藤功さん
- (富岡製糸場世界遺産伝道師協会会長)
- 笠原実さん
- (同協会広報部員)
- 山内美奈子さん
- (文化財保存計画協会研究員)
- 今井幹夫さん
- (富岡製糸場総合研究センター所長)
- 吉田敬子さん
- (建築写真家)
▼コーディネーター
- 藤井浩・上毛新聞社論説委員長
◎引き継ぐ意義分かりやすく
―民間ボランティア団体の富岡製糸場世界遺産伝道師協会が事典を編集した。
近藤 行政ではできない部分を民間で補うため県の伝道師養成講座が2004年に始まり、修了生によって協会が発足した。産業遺産は分かりにくく、県民に向けてその大切さを伝えていこうと運動を始めた。多彩な分野の人が集まり、知恵を出し合っている。身近な絹遺産が世界遺産となり、次代に引き継ぐことで県民の文化財に対する考え方を変えていけるはずだ。 ―事典はその成果の一つ。専門家でない人が勉強し、研究した意義は大きい。
笠原 伝道師には専門家と一般をつなぐ通訳の役割がある。建物だけでなく、技術や関係者も含めて製糸場全体の本質が分かるよう編集し、建設計画や建物、機械・技術、人物など7ジャンルで81項目を取り上げた。分かりやすさを重視した事典を基本図書として活用してほしい。
今井 事典の内容は確かだ。執筆者が原稿を校正する中で研究の成果を知り、知ってもらう喜びを啓発活動につなげている点が素晴らしい。
吉田 単なる教科書なら気に留めないが、この事典は読みやすく、携わった人の思いが凝集されている。
◎住民アイデア文化財保護に
―文化財の保存活用では地元の役割が重要。国内外の参考事例は。
山内 日本は行政による文化財保護態勢が整っているが、他国では資金集めからしないといけない。米国・ニューヨークの北部にあるソーガティズの文化財は灯台のみ。村人が交代で灯台守をし、灯台をホテルにしてその収入で保護している。
近藤 イタリアでは身近な遺産を自分たちで残そうと、観光協会長が自らガイドをしていた。自分の店だけが良ければという考え方はしない。
―「富岡製糸場と絹産業遺産群」が新年度にも国連教育科学文化機関(ユネスコ)に世界遺産に推薦される予定だ。地元の富岡市の意識も変化しているのでは。
今井 産業は解体・建築の繰り返しだが、富岡製糸場は創業当初の建物が残っており価値がある。片倉工業が維持管理してきた功績は大きい。伝道師協会や地元団体が啓発し、市民が製糸場の価値を理解して保存活用を行っている。
―吉田さんは桐生市内に残るのこぎり屋根工場も撮影した。
吉田 普段の生活の中だと、市文化財ののこぎり屋根工場でもその価値に気付かない。工場や絹があって現在の自分や町があることを理解してほしい。
―世界遺産登録には顕著な普遍的価値の証明が必要。のこぎり屋根にも価値がある。絹産業遺産群の普遍的価値とは。
近藤 富岡製糸場は官が造り民が育てた。日本の産業革命の礎であり、日本は世界一の絹輸出国となって世界のファッションにも影響を与えた。 今井 絹産業遺産群は10資産から4資産に絞り込まれた。技術革新の前に生産連携があり、4資産の具体的な関連を示すことが登録の近道だ。
山内 地球の人類が、人類の歴史を宇宙人に説明する時に外せないものが世界遺産。世界中のどの地域の人にも、自分の価値として理解してもらえることが大切。
―世界遺産登録運動を進めるうえで最も必要なことは。
笠原 4資産のベースに多様な絹遺産があることを理解すべきだ。県内の養蚕のピークは昭和33年ごろ。年配者には養蚕が身近だが、若い世代は関係ない人も多い。世代をつなぐ活動が大事だ。
吉田 繭から生糸を引き、機屋が絹織物にする。服を作るこのつながりは地球の人間に共通する行為であり歴史。単体ではなく関連性を重視して捉えてほしい。
―世界遺産になった後が大事。活気ある地域づくりにつなげるには。
今井 富岡製糸場は良い状態で残り、市は製糸場を核にしたまちづくりを進めている。行政だけだと総論賛成、各論反対になりやすいが、各論も賛成の方策をどう作るかだ。4資産のうち三つは西毛地区にある。ネットワーク化していくことが大事だ。
◎意識高めて地域づくりを
―県が「ぐんま絹遺産」を登録してネットワーク化する事業をしている。4資産は象徴であり、ある意味で県内全域の絹遺産と等価と言える。これらの絹遺産を保存・活用していくことが豊かな地域づくりにつながるのでは。
近藤 4資産が代表して世界遺産になることは、県民に自信と誇りをもたらす。絹産業に関わった人が県内には広がっており、ぐんま絹遺産を活用して地域を元気にしたい。
笠原 先代からの積み重ねで現在の風景がある。絹遺産を意識して見ると、地域の歴史や誇りが分かる。意識付けを繰り返すことが地域づくりとなり、地域の誇りが生まれるような伝道師活動が理想だ。
山内 今年は世界遺産条約採択40周年。世界遺産登録件数が900を超える中、世界遺産と地域との関係が重視され、保存管理計画などが厳しく審査される。時代により要求は変化するが、敏感に対応し、世界遺産登録に携わる人や研究者が一緒に前進していくことを期待している。
吉田 富岡製糸場は明治5年の創業以来、ほぼ同じ形で建物が残り、実物が見られる。世界遺産登録に向けて新旧住民が話し合い、良いまちづくりを進めてほしい。外部から来た人に名前だけの世界遺産でなく、町全体の魅力を感じられるようにすべきだ。富岡製糸場が持つ意味を全員が理解し合う形で進めていきたい。。