上毛新聞社「21世紀のシルクカントリー群馬」キャンペーン

上毛新聞社Presents
「富岡製糸場と絹産業遺産群」Web

世界遺産登録 推薦製糸場を優先で ユネスコ前事務局長・松浦氏インタビュー

「富岡製糸場と絹産業遺産群」の準備状況を高く評価する松浦氏
「富岡製糸場と絹産業遺産群」の準備状況を高く評価する松浦氏

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の前事務局長の松浦晃一郎氏は、9日までに上毛新聞社の取材に応じ、世界遺産登録を目指す本県の「富岡製糸場と絹産業遺産群」について、「国内暫定リストの中でいちばん準備が進んでいる。世界遺産の地域を拡大し、内容を多様化するユネスコのグローバル戦略の趣旨にも合っている」として、優先的に推薦すべきだとの考えを示した。稼働中の産業遺産の推薦で条件を緩和し、内閣官房を中心に手続きを進める政府の見直し方針については「稼働遺産だけ内閣官房というのは恣意(しい)しい的だ」と指摘した。

松浦氏は「生糸と絹の生産は明治維新以降、最初のいちばん重要な産業。世界遺産条約は、現物がしっかり残っていることを求めている」と述べ、富岡製糸場など本県の世界遺産候補を高く評価。県が構成資産を4件に絞り込んだことも「中核思想がしっかりしていて非常にいい。準備に時間はかかったが、いい形になった」とした。

ことし政府が推薦した「富士山」「武家の古都・鎌倉」のうち、どちらかの登録が持ち越しになることを懸念材料に挙げた。来年から文化遺産と自然遺産を1件ずつしか推薦できなくなるため「先送りになるなら富岡製糸場を早く出した方がいい」と述べた。

稼働している産業遺産の推薦で条件を緩和することには「文化財保護法の対象だけに限定する文化庁の伝統的なアプローチの仕方では、グローバル戦略に対応できない」と一定の理解を示した。ただ、富士山を推薦する過程で文化庁も弾力化してきているとして「世界遺産には総論と各論がある。文化庁が全体をしっかりみながら、各論の取りまとめもする方法を維持すべきだ」と指摘した。

内閣官房を中心に稼働中の産業遺産の推薦を取りまとめる政府案について「内閣官房はそれだけの体制になっていない。あまりにも急ごしらえの対応だ」と批判。「条件緩和し稼働している産業遺産を入れることは賛成だが、世界遺産条約が狙っている顕著な普遍的価値をしっかり保全する体制ができていないといけない」とくぎを刺した。

新しい推薦方法導入による本県候補への影響は「稼働していない産業遺産は文化庁が所管するので直接の影響はない」とした。ライバルとなる「九州・山口の近代化産業遺産群」については「先に登録すべきだとの議論が出てこないとも限らないが(推薦するには)十分に詰め切れていない」との見方を示した。

まつうら・こういちろう
山口県出身。小学生の一時期、高崎市で過ごした。外務省に入省し、フランス大使などを歴任。世界遺産委員会議長となり、1999年に日本人初のユネスコ事務局長に就任、2期10年務めた。74歳。

富岡製糸場(富岡市) 田島弥平旧宅(伊勢崎市) 高山社跡(藤岡市) 荒船風穴(下仁田町)