近代化支えた絹産業 産地群馬の功績紹介 横浜港と生糸貿易
- 掲載日
- 2012/03/17
横浜港と生糸生産地の深い関わりを検証している企画展「横浜港と生糸貿易」
幕末に開港した横浜港と本県をはじめとする生糸生産地の関わりに焦点を当てた企画展「横浜港と生糸貿易」が、4月8日まで横浜市の横浜みなと博物館で開かれている。開港後、横浜から生糸が大量に輸出され、得られた外貨によって日本は近代化を加速させた。同展では富岡製糸場や上州座繰り器を含む生糸貿易に関連した資料約300点を紹介し、絹産業が果たした役割をあらためて浮き彫りにしている。
横浜が開港したのは1859(安政6)年。ヨーロッパの主要生糸生産地だったフランスやイタリアでは蚕の病「微粒子病」がまん延し、生糸不足が深刻化していた。 そうした背景から、開港翌年から生糸の輸出は拡大。当初は東北産が多かったが、上州(群馬)、信州(長野)、甲州(山梨)などから生糸や蚕種が運ばれるようになり、主力輸出品となった。
生糸生産地に焦点を当てた同展では、主要産地として栄えた上州の富岡製糸場、信州の岡谷市、甲州の甲府勧業場などの資料により、当時の製糸業の繁栄ぶりを振り返る。
幕末に上州から信州に伝わった上州座繰り器
◎本県ブース設置
「富岡製糸場と上州の生糸」と題した展示ブースでは、明治政府が72(明治5)年に開設した日本初の官営器械製糸工場「富岡製糸場」を紹介。歌川国輝の錦絵「上州富岡製糸場之図」や蜂須賀国明「大日本内国勧業博覧会製糸機械之図」、開設当時の富岡製糸場内部を撮影した写真など貴重な資料で製糸場のにぎわいや工女たちの息遣いを伝えている。
生糸の輸出が増加すると、粗悪品も増えていった。日本産の信用回復を図るため、富岡製糸場を手本として高品質の生糸を大量生産できる西洋式技術を取り入れた器械製糸への転換が進んだ。
同製糸場建設に尽力した実業家の渋沢栄一(1840~1931年)、フランスから製糸技術の指導者として赴任したポール・ブリュナ(1840~1908年)らの姿も紹介している。
一方の蚕種では、換気を重視した蚕飼育技術「清涼育」を開発した上野国島村(現伊勢崎市)の養蚕家、田島弥平(1822~98年)をクローズアップ。清涼育に基づく蚕種・養蚕技術を記した弥平の著書「養蚕新論」のほか、日本の技術書として初めてフランス語やイタリア語に翻訳された江戸時代の「養蚕秘録」も並ぶ。
富岡市の絹製品や市民団体の活動も紹介している
◎輸出品の基準に
同館学芸員の山口●輝さんは「群馬は在来の家内工業での養蚕が盛んだった一方で、富岡製糸場や民間ではいち早く製糸工業化が始まった。群馬県産生糸の品質は均一で良質。横浜港の輸出品の基準にもなったほど。蚕種の飼育技術でも先進的だった」と本県の果たした役割の大きさを強調する。 「信州の生糸」の展示ブースでは、幕末に上州から信州に伝わった「上州座繰り器」や「足踏み式座繰り器械」など、興味深い資料が来場者の目を引いている。
◎世界遺産登録運動現代の製品もPR
「横浜港と生糸貿易」展では、製糸・織物業の発展と輸送量の増大に伴って発達した交通機関についても解説。江戸時代に利根川水系の物資輸送に活躍した「高瀬船」、1877年就航の「蒸気船通運丸」の模型展示のほか、全国的にも早い時期に整備された本県の鉄道を紹介し、横浜港と生産地の深い結び付きをあらためて検証している。
93年には碓氷峠越えの難所だった横川―軽井沢間の鉄道が開通し、信州方面からの生糸運搬に重要な役割を果たした。山口さんは「鉄道が発達する以前、産地から横浜港までの生糸運搬においては水運が主要な役割を担った。その後、横浜に生糸を運ぶために多くの鉄道が敷かれることになった」とし、生糸と交通機関発達の関係を説明する。
富岡製糸場など本館関係の資料が展示されたブース
◎上州人の活躍
また、横浜経済の発展に尽力した上州人も紹介。開港時から有力な生糸売り込み商として活躍した高崎市出身の茂木惣兵衛(1827~94年)もその一人だ。展示された「横浜貿易商十傑肖像(1892年)」、「横浜生糸改会社連名(73年)」には、その名や惣兵衛がのれんを受け継いだ「野沢屋」の記述があり、功績が見て取れる。
生糸生産地には横浜港に関連した資料が数多く残っており、「貿易、生産ともに発展していく中で、港と産地の人々が互いの存在を強く意識していたことを感じ取ることができる」(山口さん)という。
このほか、「生糸貿易の遺産の継承」と題し、世界遺産登録を目指す地元の富岡市や市民団体の現在の姿も紹介。富岡製糸場世界遺産伝道師協会によるまゆクラフト作りや上州座繰り体験の活動のほか、富岡シルクブランド協議会が製作したネクタイ、加盟企業のマフラーといった絹製品を展示し、伝統と技術が絶えることなく今に受け継がれてきたことを伝えている。
山口さんは「生糸貿易は当時の日本経済発展を支えた。横浜港150年の歴史の上で、群馬県など生糸生産地との結び付きは深い。この企画展で、生糸を通じた人々のつながりを感じてもらえれば」と話している。
【メモ】 開館時間は午前10~午後5時。月曜休館。入館料は一般200円、小中学生と65歳以上は100円。20日には、ぐんま島村蚕種の会会長の田島健一さん、東京外国語大教授の内海孝さんら5人がパネリストを務める記念シンポジウムが、同館近くの日本丸訓練センターで開かれる。