《毛の国よ 第3部・明日紡ぐ繭(3)》デッドライン 鍵を握る製糸業者
- 掲載日
- 2012/04/01
繭の入荷量の減少に合わせ、加工ラインを縮小している碓氷製糸農業協同組合=3月2日、安中市
高齢化で減少の一途の養蚕農家。その流れに拍車をかけかねない課題に農家が直面している。
「毛羽(けば)取り機のゴムベルトを作ってもらわないと養蚕を続けられない」。県蚕糸技術センターが2月17日、農家を集めて開いた意見交換会。声を上げたのは、みなかみ町で父の石坂昌之(64)とともに年5トンの繭を作る義久(32)だった。国内最大規模の農家の窮状は参加者に「今にうちも」と動揺を広げた。
資機材メーカーの撤退が相次ぎ、必需品の入手が困難になっている。繭を覆う毛羽を取り除く機械もその一つ。ベルト式を10台持っているがベルトは残り一つだけ。製造するメーカーはもうない。昌之は関係機関に10年以上前からベルトを作るよう要望してきたがなしのつぶて。「もう限界。何とかしてほしい」
JA前橋市とJA甘楽富岡は3月、蚕の飼育に使う蚕座紙と防乾紙計3万4千枚を名古屋市の蚕具メーカーに共同発注した。管内の農家が使う5年分だが、この量でないと注文を受けてくれない。
JA前橋市は過去5年に養蚕をやめた農家を巡回し不要資機材をリストアップした。農家間の中古品売買を活性化する狙い。だが、ゴムベルトのほか、ダニやカビを防ぐ薬、蚕が繭をつくる回転蔟(まぶし)の段ボールなど製造中止になったものもあり、いずれ中古もなくなる。
蚕糸業が生き残るかどうか、最大の鍵を握るのが製糸業者の動向だ。ピークの1951年に288あった器械製糸工場は今二つ。その一つ、碓氷製糸農業協同組合(安中市)の繰糸機が止まれば、全国で生産される繭の6割が一時的にも行き場を失う。
碓氷製糸の標準的な生糸の販売価格は1キロ当たり6千円。4千円前後の中国産との対抗上、大幅な値上げは難しい。繭の減少で加工賃収入も減っており、毎年2~3千万円の赤字。内部留保を取り崩して穴を埋めている。
さらに、蚕糸絹業者がグループ内で利益を分け合う仕組みの導入で、碓氷製糸は農家から繭100トンを買い上げることになった。2011年度は繭1キロ当たり2千円の交付金が配分されたが、12、13年度は1500円に減額。14年度以降はゼロになる。
◎「新たな支援を」
「1人でも養蚕する農家がいる限り努力する」と気を吐いてきた組合長の高村育也(65)だが「新たな支援がないと2年後は完全にお手上げ」と表情は厳しい。
「碓氷は蚕糸業界の存続に不可欠な産業基盤」。農林水産省、グループ化の推進役を担う大日本蚕糸会とも口をそろえる。
それでも、農水省は「新たな対策が必要かどうかは提携システム事業を検証した上で判断することになる」との構え。蚕糸会も「国産生糸の相場を高くする努力が必要」と、現時点では経営支援に慎重だ。