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「富岡製糸場と絹産業遺産群」Web

《探訪 ぐんま絹遺産》高崎 大養蚕地の息吹 今も

明治の降ひょう被害の歴史を伝える蚕影碑。住民が毎年4月に例祭を開いている
明治の降ひょう被害の歴史を伝える蚕影碑。住民が毎年4月に例祭を開いている

県内に残る養蚕、製糸、織物関連の遺産を保存活用していこうと、県は昨年度からこれらを「ぐんま絹遺産」として登録し、ネットワーク化を進めている。「絹の国」の歴史を語る各地の絹遺産を訪ねる。

榛名山南麓に広がる高崎市の榛名・箕郷地区は、かつて一大養蚕地帯だった。ぐんま絹遺産に登録された「大林馬道の大桑」は、榛名地区の草津街道(国道406号)近くの民家入り口に根を張っている。昭和初期まで繭や生糸などを運んで行き交った人たちが、休憩時に馬つなぎとして使った。

養蚕の歴史を紹介するパネルや富岡製糸場の模型が並ぶ日本絹の里の常設展
養蚕の歴史を紹介するパネルや富岡製糸場の模型が並ぶ日本絹の里の常設展

◎織物業の原点

樹高約10メートル、推定樹齢280年余りの老木は根元から傾き、支柱を添えられているが、春蚕(はるご)の飼育が始まる毎年5月中旬ごろには若葉が茂るという。

幹回りは1・5メートルあったが、現在は中央部が腐朽して外周部のみ残っている。所有する斎藤直躬さん(65)は「庭師に見てもらっているが枝が減ってきた」と心配する。

斎藤さんは昭和40年代まで養蚕をしていた父親を手伝い、畑の桑が不足するとこの大桑の葉を与えたという。

「養蚕で農家は収入を得て、繭から糸を引いて反物にすることで織物業が栄えた。その原点は桑の木。地域を見守ってきた大桑を後世に残したい」と斎藤さんは願う。

蚕糸業の歴史や絹の魅力を紹介する日本絹の里。周辺には桑畑がある
蚕糸業の歴史や絹の魅力を紹介する日本絹の里。周辺には桑畑がある

大桑から15キロほど東の箕郷地区には、「柏木沢の蚕影(さんえい)碑」が塚の一角に建つ。高さ1・2メートル、横幅約1メートルの碑に刻まれた文面の冒頭に「明治二十年」の文字が読み取れた。1887(明治20)年5月、一帯に1尺(約30センチ)余りのひょうが降り積もって桑が全滅したため、村人がやむなく飼育中の蚕をこの地に埋めて供養したことが記されている。蚕影碑は、村人が10年後の97年に建てたものだ。

芽吹き前の大桑。5月には若葉が茂る
芽吹き前の大桑。5月には若葉が茂る

◎歴史つなぐ例祭

この碑は地元住民によって管理されてきた。本田下区の狩野俊雄区長(63)によると、一時途絶えていた例祭が40年ほど前に復活。毎年4月初めに住民が蚕影碑に集まり、住職の祈願後、塚の上の石宮にお供えして交流している。「かつてこの地の住民は養蚕で生計を立てていた。碑だけではその歴史を忘れてしまう」と例祭の意義を語る。

近くの県立日本絹の里は養蚕、製糸、織物の歴史と絹の魅力を紹介する資料館だ。世界遺産候補の「富岡製糸場と絹産業遺産群」の模型や資料のほか、生きた蚕も常時展示。企画展を開いたり、機織りや染色、繭工芸体験も行っている。

県内各地で普通に見られた養蚕農家が少なくなり、機音も聞こえなくなる中、絹の里の果たす役割はさらに大きくなっていく。

(文化生活部 紋谷貴史)

蚕影碑にちなんだ演劇「蚕影様物語」=昨年11月、高崎・箕郷文化会館
蚕影碑にちなんだ演劇「蚕影様物語」=昨年11月、高崎・箕郷文化会館
【大林馬道の大桑】
  • ▽高崎市中室田町5158
  • ▽個人宅内のため見学は要事前連絡
  • ▽高崎市教委文化財保護課電話027・321・1292
【柏木沢の蚕影碑】
  • ▽高崎市箕郷町柏木沢1936
  • ▽随時見学可▽同課
【県立日本絹の里】
  • ▽高崎市金古町888の1
  • ▽料金一般200円(企画展中は400円)、火曜休館(祝日の場合は翌日)
  • ▽同館電話027・360・6300
【シルク トピック】悲話基に演劇「蚕影様物語」 100人で伝える養蚕の魂

「柏木沢の蚕影碑」の悲話に基づいて、高崎市箕郷町の住民たちでつくるアマチュア劇団、柏木(かしゃぎ)の会(岡本優子代表)が制作した演劇が「蚕影様(こかげさん)物語」だ。

2001年から5年おきに地元箕郷や前橋、富岡両市で上演してきた。

01年に本県で開かれた国民文化祭の自主企画事業として、箕郷で初演。その後、岡本さん(65)=同町柏木沢=が脚本を再構成し全15場、約2時間の劇にした。

地域に残る養蚕道具をそのまま使い、蚕も布に砂利を入れて千匹制作。桑は本物を取り寄せ、明治の養蚕農家が家族で大切に蚕を育てる様子とひょう害による惨状を再現した。役者約30人のほか、裏方を含めると総勢100人が関わる大きな舞台だ。

岡本さんは「絹遺産は箱物中心だが、本当の主役は汗を流して蚕を飼ってきた農家。演劇を通じて遺産に魂を入れることが大切で、準備が整えば来年にも再演したい」と意欲を語った。

富岡製糸場(富岡市) 田島弥平旧宅(伊勢崎市) 高山社跡(藤岡市) 荒船風穴(下仁田町)