世界遺産候補に焦点 高山社の養蚕日誌 初公開 きょうから 絹の里で特別展
- 掲載日
- 2012/06/02
高山社の生徒だった布施さんが記した飼育日誌。数時間おきに気温や湿度、給桑量などを記録している
本県の世界遺産候補「富岡製糸場と絹産業遺産群」の構成4資産と、各資産の連携による養蚕製糸の技術革新に焦点を当てた特別展が2日、県立日本絹の里(高崎市金古町)で始まる。養蚕指導機関の高山社(藤岡市)の明治、大正期の蚕の飼育日誌、荒船風穴(下仁田町)との関連を示す「蚕況報告」など初公開を含めて約150点が展示される。
高山社関連の資料は藤岡市教委から提供されたもので、同市の高山家、黒沢家、布施家が近年寄贈した。明治後期に高山社養蚕学校で学び、卒業後に同社の養蚕教師を務めた布施軍作さんが記した飼育日誌には、克明に養蚕の記録がつづられている。
◎数時間おき
1906(明治39)年の日誌では、蚕の卵を温めてふ化させる作業を4月18日に行っており、摘要欄には校門脇の八重桜が満開になったことを書き留めるなど、目に見える様子を飼育に生かしていたことがうかがえる。 その後、5月1日に掃き立て、6月4日に上じょう蔟ぞくするまで35日間の気温や給桑量などを数時間おきに記録。ふ化直後で病気に弱い1齢期では「(午後)3時、過乾ノ為メ室内床上ニ冷水ヲ散布ス」と記しており、細心の注意を払っていたようだ。
別の養蚕教師、黒沢茂三郎さんが大正3、4年に記した蚕の品種別飼育日誌にも管理データが詳しく記されており、1齢の蚕では午前3時半に世話した記述もある。
高山社の養蚕教師が全国各地をはじめ、現在のソウルまで出向いたことを示す04(明治37)年から10年間の派遣先一覧も並ぶ。藤岡市教委文化財保護課は「詳細な飼育日誌を付けることが、全国に広がった高山社の『清温育』の基本。養蚕教師から教わり、農家は丹念に記録して失敗の少ない飼育を心掛けるようになった」と日誌の意義を強調する。
特別展の準備が進む会場。高山社跡のコーナーには初公開
◎荒船風穴と関係
黒沢家の資料には、荒船風穴の事務所「春秋館」の名称が印刷された用紙に、高山社の日誌様式で書いた「蚕況報告」もあり、両者の密接な関係を示す証拠といえそうだ。
このほか富岡製糸場(富岡市)や高山社跡、荒船風穴の模型、田島弥平旧宅(伊勢崎市)に伝わる弥平の「養蚕新論」版木、戦後の自動繰糸機に使われた生糸を巻く小枠の変遷も紹介する。
県が同遺産群の顕著な価値として掲げる、生糸の大量生産を実現した技術革新と国際交流についてはパネルで説明。子ども用も掲げ、土・日曜にはボランティアが無料で解説する。
展示担当の絹の里次長、上野邦彦さんは「講演会や体験講座も企画している。特別展を通じ、4資産や世界遺産の価値を県民により深く伝えたい」と話している。
特別展は7月9日まで。観覧料一般200円、大学・高校生100円。火曜休館。問い合わせは日本絹の里(電話027・360・6300)へ。