《世界遺産 本登録への課題(2)》観光客増加へ整備活用計画 公開の在り方探る
- 掲載日
- 2012/07/15
推薦決定を受けて初の休日となった14日、大勢の見学者が訪れた富岡製糸場
2014年の世界文化遺産登録を目指す「富岡製糸場と絹産業遺産群」の推薦が了承されて初めての休日を迎えた14日、富岡市の富岡製糸場には大勢の見学者が訪れた。入場者は普段の休日よりやや多い1100人を超え、カップルや親子連れなど若い世代が目立った。
◎創業140周年
群馬サファリパークへ行く途中、看板を見て立ち寄ったという千葉県船橋市の男性(32)は「座繰りの実演や展示が勉強になった」と満足した様子。栃木県小山市の女性(36)は「中に入れる建物が増えるといい」と注文を付けた。
製糸場は、ことしで創業140周年。耐久性の面で常時公開できる施設は限られる上、もともと工場で観光客の受け入れを前提としていないため、文化財としての価値を維持しながら安全面、財政面を考慮して整備手法を探ることになる。
市は整備活用計画をまとめ、8月以降に市民の意見を募るパブリックコメントの手続きに入る。市担当者は「古い建物を古いまま見せるのも産業遺産の公開の在り方。計画に基づき、専門家の意見をもらいながら進めたい」と慎重だ。
製糸場には年間約20万人が訪れており、本登録になれば一気に50万~100万人に増えると想定される。市は大勢の観光客の街中回遊を促し、いかに市街地に長く滞在してもらえるか知恵を絞る。
◎ノウハウ導入
持続可能なまちづくりを図るため、市は各地のまちづくりプロジェクトで実績を上げる「studio―L」(大阪市)のノウハウを導入。街の魅力と課題を話し合った先月のワークショップでは、歩道整備の必要性、PR不足などを指摘する声が上がった。
登録への歩みが順調な一方で、蚕糸業は危機的状況にある。市内の養蚕農家は戦後、1968年の3730戸をピークに減少し、今は15戸のみ。農家の平均年齢は70歳を超えている。本登録に向け養蚕の灯を絶やすまいとする人たちの情熱に、かろうじて支えられているのが実情だ。
市は富岡シルクのブランド化に力を入れると同時に、小学生対象の「養蚕教育」も始めた。市内で最も若い養蚕農家、高橋純一さん(63)は「若い人が携わってくれたら、養蚕の未来は続く。絹産業を支える誇りある仕事なんだと知ってもらいたいね」と語った。
【頑張ります】
富岡製糸場解説員の会会長 関 利行さん
製糸場は絹産業の歴史を理解してこそ価値が分かる。見学者のタイプも、ただ世界遺産観光が好きな人と絹産業に関心のある人に分かれる。団体客や外国人など、ニーズに応じた解説技術を磨いていきたい。