《世界遺産 本登録への課題(4)》「清涼育」実践の田島弥平旧宅 急がれる景観保全
- 掲載日
- 2012/07/17
所有者、田島健一さん(右)が暮らす田島弥平旧宅を見学する民生児童委員=12日
本県の絹産業遺産群がユネスコに世界遺産候補として推薦されることが決まった12日、伊勢崎市境島村の田島弥平旧宅を同市境地区の民生児童委員が訪れた。参加者15人のうち半数近くは初めての見学で、「中央の人物と深くつながっていたとは」「この地区が果たした役割の大きさが分かった」と驚きの声を上げた。
◎今夏に国史跡
弥平旧宅は利根川右岸の埼玉県側に位置する。群馬県側から行くには橋を渡るか島村渡船を使うことになり、同じ市域に住んでいても境島村を「遠い」と感じる人は少なくない。
技術書「養蚕新論」を著し、清涼育を実践した田島弥平。巻頭には西郷隆盛が揮毫(きごう)した言葉が掲載されている。この本に書いた独自の技術を具体化した1863(文久3)年築の旧宅には、子孫の田島健一さん(82)が今も住んでいる。周辺の大型養蚕農家群もそれぞれの生活の場だ。地元の住民団体、ぐんま島村蚕種の会では、住民の暮らしに配慮した見学コースを設けて解説ボランティアを続ける。
構成4資産のうち、弥平旧宅の国史跡指定が動きだしたのは2010年7月。この夏、正式に国史跡となるが、まだ見学者の受け入れ態勢は十分に整っていない。大型バスの見学予約があると昨年3月に完成した同地区の公園駐車場を案内する。だが「バス2台でほぼ満杯」(同会事務局)で、近くに休憩所や店舗はない。今春、とりあえず臨時トイレ5台を増設したところだ。
◎意識調査を開始
史跡保存計画の策定や周辺環境整備も急がれる。市都市計画課では境島村地区を景観重点区域に指定するため6、7月に2回、地元説明会を開いた。現状の景観を保全することを原則に「建築物は高さ10メートル以下」「屋外広告物は10平方メートルまで」などの規制の網をかける方針だ。市企画調整課も7月、世界遺産登録に伴う課題や期待についての住民意識調査を始めた。
さかい人づくりまちづくり基金財団の石原国憲理事長は「地域活性化の好機。境地区には文化遺産、歴史遺産も多い。これらの点と点をつないで面とするために知恵を絞り、頑張りたい」と期待を膨らませる。
世界遺産候補の絹産業遺産群4資産に最後に加わった弥平旧宅。時間的な制約の中で、何を最優先するのか―。8月1日に締め切られる住民意識調査の分析を急ぐことになりそうだ。
ぐんま島村蚕種の会事務局 関口政雄さん
【頑張ります】
ぐんま島村蚕種の会事務局 関口政雄さん
蚕種で栄えた境島村の歴史を語り継ぐ運動がここまで発展し、感慨もひとしおだ。会の助言を入れたパンフレットも完成した。今は食事する場もないが、行政と協力して見学者をもてなす態勢を整えたい。