《世界遺産 本登録への課題(5)》蚕種を貯蔵した荒船風穴 保存優先し整備を
- 掲載日
- 2012/07/18
専門家による調査研究が進められる荒船風穴
本県の絹産業遺産群が世界遺産推薦候補に決まったことを受け、下仁田町はホームページに荒船風穴を中心とした特集を設けた。町内の産業遺産を紹介するとともに、風穴の見学者に注意を喚起するためだ。
長野県境に近い風穴への進入路は狭くてカーブの多い山道が続く。町は神津牧場の協力を得て、同牧場駐車場から風穴まで往復1時間ほど歩くルートを提案。「安全確保のため協力してほしい」(町教委)と呼び掛ける。
◎今も冷風吹く
荒船風穴は天然の冷風を利用して蚕種(蚕の卵)を貯蔵した施設。年1回だった養蚕を複数回行うことを可能にし、生糸生産の拡大に貢献した。蚕種が貯蔵されたのは1905年から39年までで、覆屋はないものの石積みが3基残り、今も冷風が吹き出している。
2010年度の見学者は推計約600人。現在3~4台分の駐車場を拡張したりトイレ設置に取り組むが、史跡保護優先で大規模な整備は難しいのが現状だ。積雪などを考慮して冬期は閉鎖せざるを得ない。
町は、ふるさとセンターのガイダンス機能を充実させるとともに、地層や地形を見どころとするジオパークを絡めた観光を構想。下仁田ジオパークのガイドを務める飯島富司さん(61)は「風穴は下仁田の大地が形成したものの一つ。世界ジオパークに認定され、世界遺産にも登録されればダブルの効果で集客につながる」と期待を寄せる。
風穴の解説員は嘱託職員を含め8人。山中のため常駐は難しく、町から要請があった場合に風穴へ出向いている。解説員の神戸修身さん(69)は「多くの人に足を延ばしてもらえるよう町内のツアーコースを設定したり、解説員の増員など態勢を整える必要性を感じる」と指摘する。
◎技術が未確立
そもそも蚕種を貯蔵した風穴で国史跡に指定されたのは全国でも荒船風穴と中之条町の東谷風穴のみ。風穴の整備技術が確立していないため、下仁田町教委は冷風の発生要因の解明を含め、風穴の構造を慎重に調査する方針だ。
町教委は本年度、有識者からなる調査整備委員会を設けて本格的な調査に取り組む。担当者は「石積みや覆屋など外観を整備し、肝心の冷風を失っては元も子もない。世界遺産登録に合わせて整備できればいいが、まずは保存、調査を最優先したい」としている。
下仁田町ふるさとセンター所長 秋池 武さん
【頑張ります】
下仁田町ふるさとセンター所長 秋池 武さん
冷風が吹き出て「すごい」というだけでなく、風穴の役割を理解してもらう見せ方が必要。周辺を伐採して駐車場にすれば、冷風が出なくなる危険性も。自然を大切にしながら整備しなければならない。