文化 価値 いかに表現 富岡製糸場と絹産業遺産群 世界遺産登録への課題 応援の全国的広がり/見学者の管理態勢
- 掲載日
- 2012/07/21
世界文化遺産の推薦候補について審議した特別委
文化審議会の特別委員会で、2014年の世界文化遺産登録を目指すことが決まった本県の「富岡製糸場と絹産業遺産群」。今後は県の推薦書案(日本文、英文)をもとに、文化庁が中心となって国連教育科学文化機関(ユネスコ)に提出する英文の推薦書を完成させる。英語で日本の養蚕文化や価値をどう伝え、国民全体の支援をどう取り付けていくのか。遺産群が人類の宝として登録されるまでの課題を探った。
特別委員会後の記者会見で、西村幸夫委員長(東大副学長)は「富岡製糸場は日本で開発された技術が世界に広がった珍しい事例を示す。新しい発想を世界に提供できる」と登録を期待する一方、推薦書を海外の専門家に分かりやすく示す必要性を強調した。
県世界遺産推進課の松浦利隆課長もこの点を重視する。ユネスコの諮問機関であり、ユネスコ世界遺産委員会の審査の前に登録の可否を勧告する国際記念物遺跡会議(イコモス)の専門家は欧米が中心。生糸の大量生産を実現し、絹の大衆化をもたらした養蚕、製糸分野における技術革新と国際交流という世界遺産としての普遍的な価値を海外向けに正確に伝える必要があるからだ。
9月末までにユネスコへ提出する暫定推薦書と、来年1月をめどに出す正式推薦書はいずれも英文。松浦課長は「文化遺産の専門家でも養蚕、製糸、織物には詳しくない人もいる」と指摘する。例えばヨーロッパでは撚糸(ねんし)まで行う製糸工場もあるが、日本では撚りは製糸から独立した織りの作業の一つで、こうした差異を説明することも大切だという。
世界文化遺産登録に向け、本年度ユネスコに推薦される富岡製糸場
また、欧米では養蚕自体ほとんど見られなくなってしまったことも考慮。構成資産の一つ、荒船風穴(下仁田町)が実現した養蚕の複数回化についても、明治期までは春1回しかできなかったこと、蚕が桑しか食べないことまで含めて示す必要があるという。
松浦課長は「文化庁が決めること」としつつ、「昨年までの国際会議で富岡製糸場を視察した海外の専門家数人に英語の推薦書を読んでもらい、より精度や熟度を高めることも有効ではないか」と考える。
今後は国民全体の宝として絹産業遺産群を捉えてもらえるように、啓発活動を県外でも行ってPRを強化していくことも重要。9年間の登録推進運動の成果で絹産業遺産に誇りを持つ県民は増えたとはいえ、県外の認識は高くはない。国民が推薦を後押しする態勢を構築することが大切だ。
一方で保存管理面では、多くの見学者を適正にコントロールする態勢があることも示さなければならない。松浦課長は「まずは文化庁とともに暫定推薦書を完成させ、ほかの課題も着実にクリアしていく」と気を引き締めている。