《シルクカントリー21》富岡製糸場と絹産業遺産群 世界遺産に推薦決定 「絹の国」の魅力県民に 熱帯びる地道な活動
- 掲載日
- 2012/08/25
「シルクカントリーin富岡製糸場」で基調講演する星野知子さん=ことし3月
世界遺産条約関係省庁連絡会議で、「富岡製糸場と絹産業遺産群」の国連教育科学文化機関(ユネスコ)への推薦が正式に決まった。県や富岡市など関係市町と県民が積み上げてきた世界遺産登録運動が、また一つゴールに向かって前進した形だ。県民に「絹の国」の魅力をあらためて伝える運動の歩みを振り返った。
登録に向けた運動は2003年8月、県が旧官営富岡製糸場の世界遺産登録推進を表明したことから始まった。翌年には県世界遺産推進室が新設され、県主催の講座を受けた市民による「富岡製糸場世界遺産伝道師協会」も発足。県民を巻き込んで運動が動きだした。
伝道師協会の近藤功会長(71)は「とにかく製糸場の価値を県民に理解してもらおうとの一心だった。当時は『世界遺産になるはずない』などの厳しい声も多かったが、伝道師の中に疑う人はいなかった。地元に誇りを持とうとする気持ちが強かった」と振り返る。
本県は秋田県と並んで全国に先駆けて、文化庁の「近代化遺産総合調査」(1990~91年)を実施。貴重な近代化遺産が数多くあることが分かった。
この調査を受けて94~99年には上毛新聞社が「近代化遺産保存活用キャンペーン」を展開。近代化遺産の保存・再利用を目的にシンポジウムや見学ツアーを行い、近代化遺産が地域づくりに果たす役割や可能性を提言した。
世界遺産劇場のイベント。西繭倉庫前特設ステージで開かれた東京スカパラダイスオーケストラの演奏会には、若者たちが大勢押しかけた=昨年9月
こうした蓄積を踏まえ、県と上毛新聞社などは2005年から、世界遺産登録を支援する「シルクカントリー群馬キャンペーン」を共同開催。富岡製糸場をはじめ、絹遺産を持つ市町村で養蚕体験や落語会、ファッションショーなど、多彩なイベントを展開してきた。県民運動として盛り上がりを見せ、07年1月には「富岡製糸場と絹産業遺産群」が世界遺産暫定リストに記載された。
運動にアクセントをつけたのが昨年9月、富岡製糸場で開かれた「世界遺産劇場」(世界遺産劇場実行委員会、上毛新聞社など主催)だった。世界遺産候補地、製糸場内の西繭倉庫前を会場に東京スカパラダイスオーケストラなど人気バンドの演奏会が開かれ、4日間で約1万2千人が来場。若い世代にも製糸場の魅力をアピールした。
ことし3月に開かれた「シルクカントリーin富岡製糸場」では、女優でエッセイストの星野知子さんが「愛しの富岡製糸場」と題して基調講演。シンポジウムも行い、絹にかかわってきた人たちの営みや思いを伝えていくことの大切さを訴えた。
世界遺産登録に向けた運動が前進するたびに、県民の郷土に向ける視線も少しずつ変化しているようだ。