《シルクカントリー21》施設の整備が急務 登録への課題
- 掲載日
- 2012/08/25
土地や建物が市の所有となった高山社跡。蚕室などは当初の状態に復元する予定だ
世界遺産登録運動はユネスコへの推薦が正式に決まり、一つのヤマ場を越えた。しかし、ユネスコの諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」の現地調査を来年夏にも控え、県と4資産を持つ市町は多くの課題も抱えている。施設の整備や観光客の受け入れなどをどう進めていくのかを探った。
富岡市は7月、富岡製糸場の将来像を示す整備活用計画の素案を公表した。計画は短期、中期、長期に分けており、期間は来年度から30年。場内全体の整備には、長い時間がかかることを示した。
場内の建物は本格的な耐震補強などの補修がされておらず、公開範囲は一部に限られている。多くの見学者が訪れるだけに、施設整備と公開範囲の拡大が最大の課題になる。市富岡製糸場課はイコモスの現地調査を「最大の難関」ととらえ、「調査までにすべての改修は行えないが、破損箇所の修理に取り組みたい」としている。
現在も住宅として使われている田島弥平旧宅。年内にも保存管理計画がまとまる予定だ
天然の冷気を利用して蚕の卵(蚕種)を貯蔵した荒船風穴(下仁田町)では2010年3月、風穴の一部が崩落した。石の除去は終えているものの、イコモスの現地調査までに復元は終わらない見通しだ。
現時点で風穴の構造や冷風の発生原理などは明確に分かっておらず、町教委は世界遺産登録に向けてこうした謎の解明を図る考え。「整備を進めつつ幅広い調査に取り組み、冷風の発生原理なども明らかにしていきたい」と担当者は話す。
一方、個人所有だった高山社跡(藤岡市)は、2010年度に市が土地と建物を購入した。市文化財保護課は「2階の蚕室や1階を造られた当初の状態に近づけたい」とするものの、どこまで復元できるかは未定だ。高山社が果たした役割や精神などの価値を丁寧に伝えていくため、解説員の増員も検討している。
絹産業遺産群4資産に最後に加わった田島弥平旧宅(伊勢崎市)。現在も生活に使われているため、市は居住区以外の周辺環境整備を進めていくほか、12月までに保存管理計画を策定して見学者のための案内・解説マニュアルづくりにも取り組む。
県は当面、年明けをめどに政府がユネスコに提出する推薦書の完成に全力を挙げ、イコモスの現地調査に向けて準備していく。
推薦書とともに提出する包括的保存管理計画で重要になるのが、資産と周辺環境の保護対策。資産の過度の整備は逆に文化遺産の価値を損ない、現地調査でマイナス評価にされかねない。県世界遺産推進課は「調査まで待ったなしの状態。4市町と連携して適切な対応をしていきたい」と話している。