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「富岡製糸場と絹産業遺産群」Web

《世界遺産への針路(1)》 推薦書・現地調査 ユネスコ審議まで2年 「世界の宝」磨きを 不可欠な環境整備

政府の推薦決定後に富岡製糸場を訪れ、解説を聞きながら繰糸場を見学する大勢の来場者=8月25日
政府の推薦決定後に富岡製糸場を訪れ、解説を聞きながら繰糸場を見学する大勢の来場者=8月25日

「富岡製糸場と絹産業遺産群」のユネスコへの世界文化遺産推薦が決まり、初の土曜日を迎えた25日、遺産群の核となる同製糸場は見学者でにぎわっていた。例年、夏場は見学者数が落ち込むが、ことしは9日連続で千人以上を記録するなど、先月の推薦内定以来、個人客が伸びている。登録に向けて県民や来場者の期待は高まる一方だ。

■近代化の土台

「明治初期には春蚕(はるご)しか飼えず、繭を一度に保管する必要があったため、この巨大な繭倉庫が造られた」。東繭倉庫前で解説員が説明すると、多くの見学者は興味深そうにうなずいていた。

報道で推薦を知り、初めて訪れたという新潟市の本多幸雄さん(62)、美代子さん(58)夫妻は「工女の教育所や診療所もあり、日本の近代化の土台がここにあると思った。早く世界遺産になってほしい」と願った。

絹産業遺産群は、明治政府が1872(明治5)年に設立した富岡製糸場を中心とした4資産で構成。生糸の大量生産を実現し、絹の大衆化に大きく貢献した技術革新と、技術を通した国際交流を「世界の宝」としての価値に掲げる。推薦書のコンセプトは、海外の専門家を招いた国際会議を踏まえて決めた。県世界遺産推進課の松浦利隆課長は「ユネスコの審議でも理解してもらえるはず」と自信を見せる。

■重要な地域の力

高崎市出身で蚕糸業の振興に取り組む大日本蚕糸会の高木賢(まさる)会頭も推薦決定後、富岡製糸場を訪れて朗報を喜び合った。「養蚕製糸業が切磋琢磨(せっさたくま)して日本の生糸が世界に広まった。悪い繭からいい生糸は決してできない」と、技術と品質の高さを力説する。

今後、政府は来月までに暫定版、来年1月をめどに正式版の推薦書をユネスコに提出。現地調査を経て2014年の世界遺産委員会で登録の可否が審議される。まだ越えなければならない山は少なくない。

推薦書作成とともに、県が重視するのがユネスコ諮問機関、イコモスによる来年夏ごろの現地調査だ。昨年、世界文化遺産に登録された岩手県の「平泉」を担当する同県教委生涯学習文化課は、全資産を詳細に確認する調査に向け、資産本体だけでなく周辺の草刈りを含めた日常的な環境整備の重要性を強調する。

松浦課長は指摘する。「行政も全力を挙げるが、全国から来県した人たちを地域や県民がどうもてなしてくれるかも大切な要素になる」。最後の詰めに向け、県民の役割もますます大切になってくる。

◇ ◇

2014年の世界文化遺産登録を目指し、ユネスコへの推薦が決まった「富岡製糸場と絹産業遺産群」。2年後に迫るユネスコ世界遺産委員会の審議に向けた課題や、人類の宝を未来に引き継いでいくための取り組みを探る。

(次回から社会面に掲載)

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