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《世界遺産への針路(2)》 平泉ショック 構成資産絞り込み 関門は価値の証明

高山社跡を視察する海外の専門家たち=昨年10月
高山社跡を視察する海外の専門家たち=昨年10月

2008年7月、カナダ・ケベックで開かれた国連教育科学文化機関(ユネスコ)の第32回世界遺産委員会。日本政府が自信を持って推薦した「平泉」(岩手県)に「登録延期」という厳しい判断が下された。「富岡製糸場と絹産業遺産群」は前年に国内候補として「暫定リスト」に記載されたばかり。正式に推薦されれば世界遺産に登録されると期待していた関係者にとって、"平泉落選"は冷や水を浴びせられたような衝撃だった。

「日本の推薦候補が落選したこと自体初めてだった。漠然と政府が順番に候補をユネスコに推薦し登録されると思っていたが、平泉のストップでそうではないことが分かりびっくりした」。県世界遺産推進課の松浦利隆課長は当時を振り返る。

■方針転換

追い打ちを掛けたのが、文化庁が平泉が通るまで次の世界遺産候補を推薦しないとの方針を示したこと。富岡製糸場の推薦がいつになるのか、その時期さえ見通せなくなった。

平泉ショックをきっかけに、文化庁は構成資産を広げて推薦する従来の戦略を転換。世界遺産としての顕著な価値を推薦書で明示し、構成資産を精選する方向にかじを切った。

県が推薦書の作成に取りかかったのは、ちょうどそのころ。県世界遺産学術委員会を立ち上げて、海外の専門家を招いた会議を開催。生糸の大量生産を実現した技術革新、技術の世界的な交流という絹産業遺産群の価値が世界遺産の基準を十分に満たしているとの自信を深めた。

だが、最終関門は世界遺産登録の可否を決める世界遺産委員会。世界各国の委員に絹遺産の価値が認められなければならない。平泉落選の理由は、構成資産を詰め込みすぎたことや浄土思想という概念を分かりやすく説明できなかったことだった。県は専門家の助言を受けて構成資産を絞り込んだ。

■感嘆の声

昨年10月、前橋市内で開かれた国際会議を前に、国際記念物遺跡会議(イコモス)や産業遺産に関係する海外の専門家3人が4資産を視察した。

「見違えるほど良くなった」「資産管理の方向性はこういうことだよ」。藤岡市の高山社跡で、専門家たちは感嘆の声を上げた。高山社跡は家屋に残っていた家財道具を片付け、障子戸を入れて紙を張り直すなど蚕室としての機能が一目で分かるように改善されていた。

平泉の世界遺産担当者は警告する。「審査は生き物。(審査中の)富士山、鎌倉の現地調査に注目して、常に最新の情報を知ることが重要だ」

富岡製糸場(富岡市) 田島弥平旧宅(伊勢崎市) 高山社跡(藤岡市) 荒船風穴(下仁田町)