《世界遺産への針路(4)》街づくり 高まる住民の意識 もてなしの心磨く
- 掲載日
- 2012/08/31
昭和初期の建物を改修した「ふれあいショップ和」。街並みと住民の"おもてなし"も「世界遺産の街」の魅力アップの鍵になる
富岡製糸場が操業していた、明治から昭和の建物が並ぶ正門前の城町通り。飲食したり、土産を選びながら街歩きする観光客でにぎわう。「富岡製糸場と絹産業遺産群」の世界文化遺産推薦が内定した7月以降、客足は伸びており、「世界遺産の街」に向けた"助走"が始まっている。
通りで地酒販売の「ふれあいショップ和(なごみ)」を経営する石井浩一さん(65)は3年前、昭和初期の建物を改修して開業した。木造の建物はこげ茶色の木材を生かし、内外観を製糸場のイメージに合わせた。
「レトロっぽさが漂う通りを気に入ってくれるお客さんもいる。再び富岡に来てもらうには、製糸場に頼るだけではいけない」。石井さんは観光客の反応を見るにつれ、雰囲気ある街並みづくりの重要性を実感するという。
■助成金増額
富岡市は2009年10月、製糸場周辺に残る戦前の建物を対象に、改修費の一部助成を始めた。製糸場や古い商店街との調和を図り、製糸場の来場者を街中に呼び込む―。「世界遺産の街」づくりに、シャッター通りからの再生を託した。
本年度から5年間は、助成金をこれまでの3倍の最高300万円に増額した。5月から製糸場周辺の四つの通りでは、風情ある街並みを目指した景観協定づくりも進み、住民の意識は徐々に高まっている。
一方、製糸場の玄関口となる上信電鉄上州富岡駅。来年夏の完成を目指して、製糸場と街並みに合わせた駅舎や駅前広場などの整備計画が進む。駅周辺については、市民や商業者らが将来像を検討している。
レストラン「新洋亭」を経営する井上かず子さん(63)は、もてなしの心の大切さも訴える。「一人の住民の態度が、街全体の印象になってしまう。製糸場の歴史や周辺の観光スポットなどについて説明できるようにならなければいけない」
■付加価値こうした中、6月にスタートしたのが市民による「富岡まちづくりワークショップ」だ。「世界遺産」を追い風に、人づくりを中心とした地域の在り方を研究している。
高崎経済大観光政策学科長の西野寿章教授は「世界の人たちに印象づけられる街並みについて官民で議論し、具体化していく必要がある」と指摘する。世界遺産に付加価値を付ける街づくり、人づくりとは何か。観光客に素通りされない魅力ある街へ。郊外の大型店に押され、長く疲弊していた商店街がもう一度、息を吹き返す鍵は必ずある。