《世界遺産への針路(5)》 絹のバトン 紙芝居で親しみやすく 歴史と価値次代へ
- 掲載日
- 2012/09/01
富岡製糸場を愛する会が行っている紙芝居の上演
「紙芝居のはじまり、はじまり」―。鳴り響く太鼓の音につられて、大勢の人が足を止める。自転車の荷台で繰り広げられる懐かしい紙芝居には、富岡製糸場や建設を指揮したフランス人のポール・ブリュナ、工女らが描かれている。子どもからお年寄りまでが目を輝かせ、紙芝居の世界に魅了されている。
■全5話で解説
NPO法人「富岡製糸場を愛する会」は、世界遺産登録を後押しする運動として、紙芝居「赤煉瓦(れんが)ものがたり」を各地で上演している。製糸場建設の目的、全国から集まった工女の役割、操業開始翌年の1873(明治6)年に実現した皇后、皇太后の行啓など全5話で構成し、地域の宝が日本の近代化に果たした役割を分かりやすく解説する。
親しみやすい絵と言葉で語り掛ける紙芝居だからこそ、製糸場の歴史と価値を幅広い世代へ伝えることができる。元富岡市長で紙芝居部会長の今井清二郎さん(71)は「以前は養蚕を知るお年寄りが関心を寄せてくれることが多かったが、最近は少しずつ若い人が興味を持ってくれるようになった」と手応えを感じている。
世界遺産に登録されれば、外国人観光客の増加も予想され、日本独自の紙芝居はきっと注目を集めるはずだ。将来は英語や韓国語に翻訳した紙芝居の製作も検討している。今井さんは「製糸場は115年で操業を停止したが、遺産に終わりはない。郷土の誇りを世界に発信していきたい」と未来を見据える。
世界遺産への登録を夢見て、地道な周知活動を続けてきたのが2004年発足の富岡製糸場世界遺産伝道師協会。県民を中心とした約250人が伝道師となり、製糸場と絹産業遺産群の歴史的価値を県内外でアピールしてきた。
■育成が不可欠
だが将来への不安もある。活動する伝道師は50~70代が中心。絹産業遺産群の価値を発信し、次代へと受け継いでいくためには若い伝道師の育成が欠かせない。同協会では学生やファミリー層といった若い世代への啓発に力を入れる。ショッピングセンターや学園祭で出前講座を開催したり、パネル展示や繭クラフト体験などを通じて、絹の文化と遺産群の価値を丁寧に訴え続ける。
伝道師協会の近藤功会長(71)は「後継者の育成は大きな課題。活動を理解し、絹遺産を語り継いでくれる人材にぜひこのバトンを託したい」と思いを語る。
養蚕、製糸、織物と続く本県の絹文化に、多くの人の思いが重なる。絹の歴史と価値を語り継ごうとする県民の思いは、世界遺産登録に向けてますます強くなっている。