《世界遺産への針路(6)》文化の「応援団」 劇や映画で運動支援 関心高める作品を
- 掲載日
- 2012/09/02
家屋の概要が記された説明板
「私が持つ知識と技術を多くの人に広めたい」―。8月25、26の両日、前橋市内で上演された劇「絹の国から」(県、県教育文化事業団主催)の一場面。養蚕教育機関、高山社を組織して技術の普及に力を注ぐ高山長五郎はこう声を張り上げた。
■県民47人出演
1870(明治3)年の富岡を舞台に、製糸場建設準備に追われる人々の姿を描いた作品。
出演したのは、オーディションで選ばれた県民47人だ。観客からは、「富岡製糸場に行きたくなった」「私も製糸場の素晴らしさを伝えたい」といった声が寄せられた。
脚本と演出を手がけた前橋市の生方保光さん(52)は、4資産を含む絹遺産を取材して先人の「日本のために役立ちたい」という心意気に触れた。「建築物の価値はもちろん、目に見えないものの大切さを表現したくなった」
文化・芸術の力で、世界遺産登録運動を側面から支援する「応援団」が次々に生まれた。中央工科デザイン専門学校(前橋市)が製糸場建設を素材に制作したドキュメンタリー映画「はじめの始まり ブリクとシマン」もその一つだ。4月の米国・ヒューストン国際映画祭に出品され、学生部門最高賞のプラチナ賞に輝いた。「歴史的価値が際立つ映画で、世界遺産登録にも影響を与える」。日本と西洋の技術とものづくりの精神に迫った作品は高く評価され、世界に製糸場の価値をアピールした。
県内外の学校や図書館などでも上映され、鑑賞者は千人を超えた。総合プロデューサーの映画監督、桜井真樹さん(63)は「さらに県民の関心を高めなければならない。まずは絹遺産に足を運んでもらうことが大事」と話す。制作に関わった同専門学校2年、浅見亮太さん(26)と田中斗弥さん(20)は「製糸場のことを知れば知るほど愛着が湧き、応援したい気持ちが大きくなった」と口をそろえる。
■思いを乗せ
「絹の翼を 拾い集めて 羽ばたけるさ We'll fly…」。太田市出身のシンガー・ソングライター、YUKA(本名・黒崎由香)さん(36)は2005年、製糸場に関わる人たちの思いを乗せたポップス曲「FLY~絹の翼を拾い集めて」を作詞作曲した。以来、県内外のライブで披露し、製糸場の存在を多くの若者に知らせている。「私にできるのは歌うこと。県民一人一人が自分にできることを考えて行動を起こしてほしい」
富岡製糸場と絹産業遺産群を素材に文化活動が生まれ、それに触れた人たちが応援団に加わっていく。その広がりは、世界遺産への歩みをさらに力強く後押ししてくれるに違いない。
この連載は文化生活部取材班が担当しました。