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「富岡製糸場と絹産業遺産群」Web

《まちづくり 新たな鼓動 12市のビジョン》富岡市 世界遺産 街に誇り

世界遺産推薦が決まり、多くの観光客が訪れている富岡製糸場
世界遺産推薦が決まり、多くの観光客が訪れている富岡製糸場

旧官営富岡製糸場の世界遺産推薦が決まり、市内外から熱い視線が注がれる富岡市。今夏はユネスコの諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)の現地調査が予定され、「2014年の世界遺産登録」という目標が現実味を帯びてきた。世界遺産にふさわしいまちの構築に向けて官民共同の取り組みが進む。

◎世界遺産 知名度生かし物産ブランド

旧官営富岡製糸場は世界遺産推薦決定を受けて入場者が急増。特に昨年10、11月は平日でも1日の入場者数が千人を超えた。今のところ年間入場者数は約20万人台だが、世界遺産登録後は100万人に上るとも予想されている。

観光客の受け入れ対策として、市は中心市街地で新たな駐車場の候補地の絞り込みを進めるほか、市街地の回遊性を高めるための観光拠点づくりや路面改修など急ぐ。今夏には上州富岡駅の新駅舎が完成する予定で、駅前も様変わりする。

富岡製糸場の知名度を生かし、市は絹製品に加え、シイタケやネギをはじめとする農産物など"富岡ブランド"の売り込みにも力を入れる考えだ。世界遺産まちづくり部は「養蚕をはじめとする蚕糸絹業システムの維持など、無形の財産にも目を向けたい」としている。

「市民が誇りを持てる街にしたい」と話す岡野市長
「市民が誇りを持てる街にしたい」と話す岡野市長

◎まちづくり にぎわい創出にワークショップ

製糸場を核としたまちづくりを推進する上で、市民が地域の魅力を引き出し、にぎわい創出に協力する「まちづくりワークショップ(WS)」も本格的に動きだした。コミュニティーデザインの第一人者、山崎亮さんが率いる「studio―L」(大阪市)と県内自治体で初めて契約し、そのノウハウを導入。WSには市民有志約60人が参加している。

これまで6回のWSを通じて市の魅力や課題を話し合い、「であえる、つどえる、ふれあえるまち」「文化かおるクリエイティブなまち」など五つの将来ビジョンを共有。分野別にチームを組み、新年度から具体的な取り組みが始まる。

◎市民協働 参加型予算を行政区に配分

まちづくりWSに象徴されるように、市は市民と行政による協働のまちづくりを重視している。行政組織のスリム化が進んで市民の細かなニーズが把握しづらくなったり、各地域で優先すべき事業が異なるといった問題を解消する狙いで、市民が地元の課題を話し合いでまとめ、これに行政が対応する形で両者が支え合う地域社会を構築する。

新年度は地域が必要とする事業を市民に提案、実施してもらう「市民参加型予算」を創設し、公民館を単位とした行政区に対して200万円を上限に配分。こうした市民協働の在り方をまとめた基本計画の策定も検討しており、市民を含めたWSを開く。総務部は「地域の結束を強める仕組みづくりを進めたい」としている。

市民主体で富岡の活性化を考えるまちづくりワークショップ=昨年6月
市民主体で富岡の活性化を考えるまちづくりワークショップ=昨年6月

【次代を育む】母親対象に100講座

少子化や核家族化が進み子育て環境が変化したことで、母親が育児に不安を抱えるケースが増えている。富岡市は乳幼児を持つ親を支援するため、2002年度から市有施設「あい愛プラザ」や公民館の「親と子のスマイルサロン」でスクールを開講している。

育児の知識だけでなく、胎児や乳幼児の心身の発達を学ぶ点が特徴。子どもの五感は大人が想像する以上に発達していることをゲームなどを通じて理解し、親子の絆を強めていく。

妊婦を対象に胎児の発達過程を学ぶマタニティスクール、乳幼児の心に共感して親子の絆づくりをする0歳と1~2歳のペアスクールがあり、年間で計約100講座を開催している。

受講者からは「気持ちに余裕ができた」などと好評で、0歳スクールについては出生数に対する受講率が4割に上る。修了後も"同期"の母親たちが交流を続けることも少なくない。市こども課は「学ぶことで子どもを理解できれば、育児のストレスは減る。『育児は楽しい』と思える環境づくりにつなげたい」としている。

親子の絆づくりを図るペアスクール
親子の絆づくりを図るペアスクール

◎岡野光利市長に聞く 製糸場で盛大な観桜会 市街地の回遊性高める

―2013年はどんな年か。

富岡製糸場の世界遺産登録に向けて最も大切な年だ。製糸場のニュースが流れるたびに観光客が増えており、市外の人に「富岡に行って良かった」と思ってもらえるように対応しなければ。もちろん製糸場ばかりでなく、市民が安心して暮らせる体制づくりにも取り組む。世界遺産にふさわしい品格を備え、市民が誇りを持てる街を目指したい。

―製糸場の整備活用は。

夏ごろにイコモスの現地調査があるため、大規模な 改修は調査後に取り組む。その代わり桜の季節に 開く観桜会をこれまで以上に 盛大に催したいと考えている。製糸場設立に貢献したフランスとの 関係をあらためて考える機会にするため、群馬日仏協会と協力できるといい。

―中心市街地のまちづくりも大きく動いている。

製糸場には多くの観光客が訪れているが、現状は駐車場との往復にとどまるため、市街地の回遊性を高める仕組みが必要だ。路面整備を計画しているほか、「まちかど遊YOUプラザ」を街中の観光拠点として改修する。中心市街地に特色ある飲食店街があるものの営業は夜間が中心のため、昼間も観光客が散策できるようにしたい。

ソフト面では「まちづくりワークショップ」に 期待している。甘楽富岡地域は 住みよい所であるがゆえ、これまで住民は挑戦することが 少なかったと思う。斬新な まちづくりプランで地域に「喝」を入れてほしい。

―周辺地域との観光連携も課題だ。

草津や伊香保に加え、四万温泉との交流協議も進めていきたい。首都圏からの誘客を図るため、製糸場とゆかりのある深谷市、横浜市や横須賀市などとのつながりも強めたい。

富岡製糸場(富岡市) 田島弥平旧宅(伊勢崎市) 高山社跡(藤岡市) 荒船風穴(下仁田町)