《探訪 ぐんま絹遺産》下仁田・南牧 生糸の歴史刻んだ鉄路
- 掲載日
- 2013/01/22
冷気を利用して蚕種を貯蔵した荒船風穴。冬期は立ち入りが制限されている
西上州の山あいには、かつて 日本を世界一の生糸輸出国に押し上げた 鉄道遺産や風穴が残っている。下仁田町と 南牧村のぐんま絹遺産4カ所を紹介する。
生糸の輸送に貢献した上野鉄道の鬼ケ沢橋梁。悪路のため注意が必要
◎最古級の鉄橋
県道南蛇井(なんじゃい)下仁田線を車で走っていると、旧上野(こうずけ)鉄道関連施設「鬼ケ沢橋梁(きょうりょう)」の案内板が見えた。上野鉄道(現上信電鉄)は1897(明治30)年、高崎―下仁田間に敷設された軽便鉄道で富岡・下仁田地域の繭や生糸、蚕種(蚕の卵)の輸送を目的に建設された。
富岡市と下仁田町の境界に架かる橋梁は長さ10メートル、幅1メートルで国産の鉄橋としては最古級という。1924(大正13)年に上信電鉄が電化されるまで役割を果たした。
近くに住む町文化財調査委員の岡野文男さん(76)は「私自身も1970年ごろまで養蚕をしていた。日本の絹産業を支えた橋梁の価値をいつまでも伝え続けたい」と、橋梁周辺の草刈りを続けている。
もう一つの旧上野鉄道関連施設「下仁田倉庫」(同町下仁田)は、下仁田駅の近くにある。20(大正9)年に設立され、倉庫構内に引き込み線を敷設するなど上野鉄道と深いつながりがある。21年と26年に建設された二つのれんが倉庫は、繭の一時保管や乾燥などに使われたものだ。
ぐんま絹遺産に追加登録された養蚕用具
◎天然の冷蔵庫
長野県境の荒船山北麓に位置する荒船風穴(同町南野牧)は、蚕種を貯蔵する"天然の冷蔵庫"として繭の増産に大きく貢献した。岩の隙間から吹き出す冷気を利用し、ふ化する時期を遅らせることで1年に1回だった養蚕が複数回できるようになった。取引先は国内のほか、朝鮮半島にまで及んだという。世界遺産候補「富岡製糸場と絹産業遺産群」の一つでもあり、電気冷蔵庫の普及前に自然現象を活用した先人たちの知恵と苦労がしのばれる。
昨年11月、ぐんま絹遺産に追加登録された「南牧の養蚕・繰糸(そうし)・機織(はたおり)用具」を展示する南牧村民俗資料館(同村羽沢)を訪れた。回転蔟(まぶし)や桑切り機といった329点は、農機具などともに国の登録有形民俗文化財にもなっている。
養蚕業は明治末期には村の主要産業となり、高山社(藤岡市)や競進社(埼玉県本庄市)から教師を招いて指導を受けたという。同村教委社会教育係の新井武さん(48)は「用具のほとんどは村内の農家が寄贈してくれたもの。群馬の隅々まで盛んに養蚕が行われていたことを証明してくれている」と説明している。
(文化生活部 新井美認)(第4火曜日掲載)
繭の保管や感想に使われた下仁田倉庫
- ▽下仁田町白山、富岡市南蛇井
- ▽悪路のため見学困難
- ▽下仁田町ふるさとセンター TEL:0274・82・5345、富岡市教委文化財保護課 TEL:0274・62・1511
- ▽下仁田町下仁田
- ▽私有地のため外観のみ見学可。敷地内は立ち入り禁止
- ▽同センター
- ▽下仁田町南野牧
- ▽12~3月は立ち入りを制限。風穴内部は立ち入り禁止
- ▽同センター
- ▽南牧村羽沢
- ▽南牧村民俗資料館で展示。月曜、火曜、祝日、年末年始休館。入館無料
- ▽同資料館 TEL:0274・87・2417
展示されている上野鉄道のれんがやレール
鉄道誘致の熱意語る 下仁田の歴史民俗資料館 れんが、レールを展示
下仁田町ふるさとセンター歴史民俗資料館(同町下小坂)では、荒船風穴や上野鉄道の関連資料を展示している。
展示室には、上野鉄道の鬼ケ沢橋梁に使われたれんが、レールなど約20点が飾られている。町教委文化財保護係の高橋司さん(38)は「明治28年の株主募集の際、南蛇井(なんじゃい)以西の養蚕農家ら327人が1~3株の少数保有株主になって協力したんです」と、鉄道誘致に寄せた住民の熱意を教えてくれた。
風穴のコーナーでは、地元民の聞き取り調査をまとめた冊子など約80点を展示。冊子には、蚕種の出し入れの流れや貯蔵法が記録されている。高橋さんは「資料を見てから現地に行けば、より理解が深められる」と来館を呼び掛けている。
入館料は大人100円、中学生以下無料。月曜と祝日の翌日、年末年始は休館。問い合わせは同館(TEL:0274・82・5345)へ。