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「富岡製糸場と絹産業遺産群」Web

《ひと紡ぎ まち紡ぎ・・・絹遺産と歩む・・・第1部 文化の継承 》(2) 解説員のスキルアップ 言葉で魅力伝える 

富岡製糸場で解説員の話を聞く見学者
富岡製糸場で解説員の話を聞く見学者

「ようこそ、富岡製糸場へ」。赤れんがの繭倉庫前に集まった見学者に、富岡製糸場解説員の会の中野明さん(62)=富岡市富岡=が呼び掛けた。1月の平日とあって定時ツアーの参加は県外から訪れた人も含めて10人ほど。この見学を入り口として、本県の絹遺産群にどれほど関心を持ってもらえるか。解説員の果たす役割は大きい。

◎100万人が目前

製糸と建築の技術、フランスから 来た技術者や工女のこと、なぜ製糸工場が 富岡に造られたのか―。中野さんは見学ルートを案内しながら一通り説明する。「でも繰糸機の詳しい 仕組みを聞かれた時は即答できなかった。次までの宿題だね」と苦笑い。分かりやすさと専門性。見学者の予期せぬ 質問にも対応できる幅広い知識が必要だ。

退職校長会を母体とした解説員の会には製糸場の社宅で生まれ育った人、養蚕、機械に詳しい人など93人が所属する。一方で 年間20万人台で推移してきた見学者は、世界遺産登録となれば100万人に達すると想定される。早ければ 来年にも迫る「その時」に向け、解説員の一層のスキルアップが求められている。

1月8日。解説員20人が製糸場の食堂に集まった。解説マニュアルの読み合わせ会だ。同製糸場総合研究センター所長の今井幹夫さん(78)が同席し、マニュアルを朗読して現場で感じた疑問点などを議論する。

「富岡製糸場では『工女』としているが、女性労働者は女工と呼ぶのが一般的。違いをどう説明したらよいか」。1人から質問が挙がった。過酷な労働を描いた「女工哀史」と混同している見学者もおり、工女に関する質問は多い。富岡では、1日8時間勤務で教育の機会も与えられるなど近代的な労働制度が導入されたことは重要な要素。今井さんは「呼び名を区別した確かな理由は分かっていない。ただ工女制度の特徴はしっかり伝えて」と念を押した。

◎石見は有料化

同じ産業遺産として、2007年に世界遺産に登録された島根県の石見銀山。当初は市民が見学者に無料でガイドを行っていたが、押し寄せる見学者にたちまち出動は1人月20回以上に。負担を減らすため、あえて有料化に踏み切った。

同様の懸念は富岡製糸場も抱える。それでも市富岡製糸場課は「今のところ有料化は考えていない」という。産業遺産の価値は、建物を見ただけでは十分に伝わらない。解説員の会も、より多くの見学者に歴史や文化を伝えたいと考えている。

会長の関利行さん(83)=同市七日市=は、だからこそ解説員の力量を重視する。「見学者に富岡製糸場が世界遺産になる資格があると思ってもらえるかは解説しだい。私たちの言葉でしか伝わらないことがあるはず」

富岡製糸場(富岡市) 田島弥平旧宅(伊勢崎市) 高山社跡(藤岡市) 荒船風穴(下仁田町)