《ひと紡ぎ まち紡ぎ・・・絹遺産と歩む・・・第1部 文化の継承 》(3) 授業に高山社教育 地域へ誇りと愛着
- 掲載日
- 2013/01/26
「高山社って知ってる?」―。「富岡製糸場と絹産業遺産群」の一つ、国史跡の高山社跡(藤岡市高山)を校区に抱える美九里西小の教諭、伴野(ともの)悠理さん(30)は昨年春、受け持ちの4年生16人に問い掛けた。手が挙がったのは2、3人で、いずれも「名前だけ」。近代的な養蚕の普及に大きな役割を果たした教育機関は、地元の子どもにさえほとんど知られていない。
◎世界の宝
「世界の宝である高山社跡があり、桑畑だって残っている。このことの意味を子どもたちが学べば、地域への誇りと愛着も育つはず」。伴野さんはそんな思いで2009年、4年生の総合学習や社会の授業に高山社教育を取り入れた。
本年度は総合学習を使って蚕を飼育、秋には高山社跡や富岡製糸場、地元の養蚕農家を訪ねた。今月17日には、県立歴史博物館の学芸員を招いて伝統行事の繭玉作りを体験。かつて養蚕と暮らしが一体となっていたことを教えた。
「先生、新聞に高山社が出ていたよ」。昨年夏、登校してきた子どもが、うれしそうに話し掛けてきた。「自分で学習したことは自信になる。それは地域の遺産を守っていく意識にもつながる」。伴野さんは、子どもの報告を小さくても着実な成果だと受け止める。
小学校の教科書では5年で世界遺産、6年で富岡製糸場が出てくる。しかし同小の場合、高山社教育は4年に集中しており、5、6年では多くの時間を割けないのが実情だ。中学に進むと「殖産興業」といった明治の時代背景を学ぶ。こうしたカリキュラムをにらみながら、地域の素材を取り込んだ学習をどう構築していけばいいのか。
本県で世界遺産登録運動が始まって10年。しかし、学校教育では「きめ細かい地域の特色を優先して取り扱う」(県教委)ため、県全体を特徴付ける養蚕、製糸、織物業に関わる組織的な学習は置き去りにされてきた。
系統的に学ぶ
こうした中で藤岡市教委は新年度、小中学校の9年間で系統的に高山社などを学ぶ「高山社学(仮称)」を市内の全小中学校16校に導入。高山社跡の見学と蚕の飼育を必修化し、高山社と創設者の高山長五郎の功績を教えることを決めた。
しかしながら高山社学のノウハウは確立していない。養蚕や高山社の歴史に詳しくない教員もおり、授業は手探りになると予想される。「藤岡を誇りに思い、愛する児童を育成するために」。市教委と各校の知恵が試されることになる。