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「富岡製糸場と絹産業遺産群」Web

《ひと紡ぎ まち紡ぎ・・・絹遺産と歩む・・・第1部 文化の継承 》(5) 行政主導で応援団 自慢の施設に光を 

下仁田ジオ・歴史遺産応援団の養成講座を受ける人たち
下仁田ジオ・歴史遺産応援団の養成講座を受ける人たち

長野県境に近い下仁田町南野牧の山中に、大規模な石積みの遺構がある。「富岡製糸場と絹産業遺産群」の一つ、荒船風穴。明治から昭和初期、ここに大量の蚕種(蚕の卵)が貯蔵された。岩場から吹き出す冷気を閉じ込めた"天然の冷蔵庫"として孵(ふ)化時期をコントロールし、春蚕(はるご)だけだった養蚕の年複数回化を可能にした施設だ。

地質学的に重要な地形や地層が多い町は2011年、大地(ジオ)の公園「日本ジオパーク」に認定された。荒船風穴は世界遺産候補でもあり、ジオパークの見どころの一つでもある。同町でこの両方を解説するガイド「下仁田ジオ・歴史遺産応援団」の養成講座(町教委主催)が始まったのは、昨年8月。町の世界遺産登録運動を担う人たちは、今も勉強を続けている。

◎見えない道筋

団員は現在、町職員を含めて30人ほど。年齢層は比較的高めで、町外から参加する人も少なくない。「地元の若い人が入ってくれると、もっと盛り上がるのに」。3年前から風穴のガイドを務める岩井実さん(61)=富岡市一ノ宮=は残念がる。

地元の住民は、周辺の除草を申し出るなど協力を惜しまない。けれども、世界遺産登録運動を担っていく住民組織は生まれなかった。こうした中で、行政主導で誕生したのが応援団だ。「町内周遊観光の需要にもつなげたい」と町教委は期待するものの、まだ活動の道筋は見えてこない。

この出遅れの背景に何があるのか。山中にあるという地理的な条件に加え、電気冷蔵庫の普及で風穴が使われなくなったのは昭和初期のこと。風穴で働いた人はおらず、記憶の風化は進んだ。町民の間でその役割や価値が知られるようになったのは、県や町の調査が行われたここ数年のことだ。

証言を冊子に

「蚕種の保存に使われた風穴では国内で最大規模。運営に関わった人たちは自信と誇りに満ちていたはず」。風穴について研究している町ふるさとセンター所長、秋池武さん(68)は先人たちの思いをこう推測する。

町教委は11年度に高齢者から風穴に関する記憶の聞き取り調査を行い、証言を冊子にまとめた。「通学時に蚕種紙を風呂敷に包んで運ぶと、いい小遣い稼ぎになった」「風穴は夏は過ごしやすく、冬は暖かく感じた」―。子どものころの おぼろげな記憶だが、遺構や文書からは 把握できない生きた情報が寄せられた。

産業の衰退とともに失われた先人の誇りをいかに後世へと伝えるか。秋池さんは「地質、自然環境、養蚕、建造技術など多様な風穴の魅力を地域の歴史と絡めて紹介することができないか」と考える。

遅れていた取り組みは、ようやく動き始めた。

富岡製糸場(富岡市) 田島弥平旧宅(伊勢崎市) 高山社跡(藤岡市) 荒船風穴(下仁田町)