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「富岡製糸場と絹産業遺産群」Web

《ひと紡ぎ まち紡ぎ・・・絹遺産と歩む・・・第1部 文化の継承 》(8)稼働する製糸工場 現場の理解広めたい 

機械音を響かせて繭から糸を引く繰糸機。富岡製糸場に展示されているものと同型が使われている=碓氷製糸
機械音を響かせて繭から糸を引く繰糸機。富岡製糸場に展示されているものと同型が使われている=碓氷製糸

妙義山のふもと、碓氷川沿いにある碓氷製糸農業協同組合(安中市松井田町)の工場。煮たてた繭のにおいが充満し、ガイドの声が聞き取れないほど自動繰糸機のごう音が響く中、一斉に糸が引かれていく。

「富岡製糸場も、こんな大きな音の中で糸を作っていたのか」。見学者の一人がつぶやいた。ここで使われているのは、富岡でビニールカバーがかかった状態で展示されているものと同型の繰糸機だ。ガイドを担当する職員、神沢秀幸さん(52)は「多くの見学者が、まずこの音に圧倒されます」と話す。

「繭さえあれば製糸を続けられる。でも養蚕農家が減って繭が入ってこない」。組合長の高村育也さん(66)は窮状を訴える。打開策はあるのだろうか。

◎見学受け入れ

国内で一定規模を持つ器械製糸工場は碓氷製糸と山形県の民間会社のみ。このうち国産繭の6割近くを扱うのが碓氷製糸だ。繭の入荷量は2010年165トン、11年131トン、12年117トンと年々減少。生糸生産量は20年ほど前まで年間150トンを維持していたものの、現在は20トン程度まで落ち込んでいる。

蚕糸業のために何かできないか―。碓氷製糸は、団体見学の受け入れに力を入れようと考えている。これまで生産を最重視して積極的には宣伝してこなかった取り組みだ。生産現場を見てもらった後、展示販売室に案内してショールやタオルといった県産絹製品をアピールしていく。高村さんは、現場を知ってもらうだけでも十分意味があると考える。

昨年11月、県庁で開かれた産業遺産の国際シンポジウム。海外の専門家は、工場の閉鎖で機械類は売却されてしまうのが通例の中で、操業停止時のまま機械が残っている富岡製糸場を高く評価した。その上で、一言付け加えた。「稼働状況を見られれば、さらにいい」。碓氷製糸の見学者受け入れは、富岡にないものを補完することにつながる。

◎シルクロード

「養蚕、製糸が残らなければ、川下だけの足のない絹文化。群馬にはワンセットでそろっている。しかもそれぞれ極めてレベルが高い」。蚕糸絹業と絹文化の振興を図る大日本蚕糸会会頭で高崎市出身の高木賢(まさる)さん(69)は、富岡製糸場の周辺で養蚕、製糸業が続いていることを重視する。輸入生糸でスカーフやネクタイを織るだけの文化が残ったイタリア、フランスのブランドメーカーとは根本的に違うからだ。

輝いたという歴史だけでなく、絹産業の現状をより多くの人に見て感じて学んでもらうために高木さんは提案する。「富岡製糸場の来訪者が、碓氷製糸や養蚕農家を見て回れる新しいシルクロードを作れないか。群馬なら、それができる」

富岡製糸場(富岡市) 田島弥平旧宅(伊勢崎市) 高山社跡(藤岡市) 荒船風穴(下仁田町)