《探訪 ぐんま絹遺産》安中・高崎 世界認めた座繰り糸
- 掲載日
- 2013/02/26
オリジナル絹製品が並ぶ碓氷製糸の展示販売室
国道18号を高崎から軽井沢方面へ進むと、安中市原市の商業施設の一角に2階建て瓦ぶきの木造建築が目に入ってきた。日露戦争中の1905(明治38)年に建てられた県内初の組合製糸、碓氷社の本社事務所で、ぐんま絹遺産に指定されている。
糸繭商人や養蚕農家らが奉納した八幡八幡宮の青銅製燈籠
◎情報収集に力
碓氷社は養蚕農家が組合員となり、1878(同11)年に結成された。本社事務所は通常は外観しか見られないが、安中市教委文化財係長の藤巻正勝さんに特別に内部を案内してもらった。1階は事務所と応接室、2階は100畳の大広間が広がっており、窓にはフランス製板ガラスが使われている。
「ここに地域の組合員代表100人以上が集い、輸出国のアメリカが求める生糸情報を共有した」。藤巻さんは碓氷社を組織した萩原鐐太郎ら先人が情報収集に力を入れたことを強調する。
木造2階建ての重厚な外観の旧碓氷社本社事務所
碓氷社は当初、地域の農家の女性が上州座繰りで引いた糸を共同で大枠に巻き返すことで品質管理し、器械製糸の富岡製糸場をしのぐ生産量を誇った。このうち最上級の座繰り糸に「五人娘」というラベルを付け、米国に輸出した。
市学習の森ふるさと学習館(同市上間仁田)には、碓氷社が創業からわずか2年後のメルボルン万博(1880年)と、シカゴ万博(93年)で受けた表彰状が掲げられている。同社の生糸の品質が世界に認められた証しであり、いずれもぐんま絹遺産だ。
坂本宿の先、国道18号旧道沿いには、碓氷峠鉄道施設がある。碓氷線の横川駅と軽井沢駅間約11キロが結ばれたのは93(同26)年。急勾配をアプト式登坂機構で克服し、養蚕、製糸業で栄えた群馬と長野をつないで蚕種や繭、輸出用の生糸を運んだ。「めがね橋」の通称で知られる赤れんが造りの碓氷第三橋梁(きょうりょう)やトンネル、丸山変電所などが国重要文化財に指定されている。
碓氷社の生糸の品質を認めたメルボルン万博(右)とシカゴ万博の表彰状=安中市学習の森ふるさと学習館
◎灯籠に名刻む
最後に見学した絹遺産は八幡八幡宮(高崎市八幡町)の青銅(唐銅(からかね))製燈籠(とうろう)で、拝殿前に高さ5メートルの一対が立っている。神社大修復事業の完遂記念として、生糸商人たちにより67(慶応3)年に奉納された。
灯籠を観察すると、寄付者の名前が下部に刻まれていた。横浜で活躍した高崎出身の糸繭商、野沢屋(茂木)惣兵衛が大願主となり、高崎、横浜の糸繭商や養蚕関係者らが名を連ねている。碓氷社の初代代表、萩原音吉の名前もあり、絹で世界と渡り合った先人たちの存在を今に伝えている。
(文化生活部 紋谷貴史)
第4火曜日掲載
旧碓氷線のトンネル。線路跡が遊歩道として整備されている
【旧碓氷社 本社事務所】
▽安中市 原市 ▽外観のみ見学可 ▽同市学習の森ふるさと学習館TEL027・382・7622
【碓氷社万国博覧会英文表彰状】
▽安中市上間仁田(同市学習の森ふるさと学習館内)▽午前9時~午後5時、火曜休館(祝日の場合は翌日)、観覧料一般100円、企画展開催時は別▽同館
【碓氷峠鉄道施設】
▽安中市松井田町坂本▽随時見学可▽同館
【八幡八幡宮唐銅燈籠】
▽高崎市八幡町▽随時見学可▽同市教委文化財保護課TEL027・321・1292
【シルク トピック)】碓氷製糸 見学受け入れ 見て触れて絹感じて
国産繭の6割を扱う碓氷製糸農業協同組合(安中市松井田町)。今も碓氷川の水を使って糸を引き、全国の織物産地に出荷している。
昭和40年代に年間千トン以上あった繭入荷量は、昨年117トンまで減った。こうした状況を受け、高村育也組合長は「見せる工場」に力を入れる。予約制で5人以上の見学を受け入れ、繭の乾燥から繰糸、糸の巻き返し、仕上げなど工程順に説明している。
5年ほど前に国産絹製品の展示販売室も設置。ボディータオルやストール、県のブランド蚕品種「ぐんま200」を使ったハンカチなどオリジナル製品が並ぶ。細くて弾力性がある高級糸「あけぼの」の白生地など、ここでしか買えない商品もある。
担当者は 「工場見学後、製品を見て触って、 絹の光沢や 手触りの良さを知ってほしい」 と話している。