荒船風穴を修復 下仁田町教委が設計案 高い石積み技術踏襲
- 掲載日
- 2013/03/05
崩落部分の修復が行われる荒船風穴
世界遺産登録を目指す「富岡製糸場と絹産業遺産群」の構成資産、国史跡「荒船風穴」(下仁田町南野牧)=豆字典=について、町教委は新年度、崩落した1号風穴の修復工事に着手する。本年度の調査で、冷風を取り込むための石積み技術が解明され、高い石積み技術に基づいた復旧設計案を作成した。県を通じて文化庁に申請し、早ければ6月ごろ着工する。夏にはユネスコ諮問機関、イコモスの現地調査が行われる予定だが、県は構造や丁寧な修復の現場を見てもらうことで、登録へのプラス材料にしたい考えだ。
国史跡に指定された風穴の保存修理が行われるのは国内で初めて。町教委は11年度から、1号風穴で崩落したり、不安定な状態になった石を取り除いて調査し、石を粗く積み上げる独特の工法を解明した。
町教委によると、風穴は表面の石と、その背面に入れた直径20~30センチの「裏込め」、自然岩塊のすき間に粗く斜めに積んだ直径50センチほどの「組石」で構成され、冷風の吹き出し口を確保しながら施設内に冷たい空気を閉じ込める工夫が施されていた。
この工法を 踏襲して作業を進める復旧設計案を作成。設計案は先月開かれた有識者でつくる調査・整備委員会で了承された。復旧工事は 年内に終える方針。
修復期間中も公開は継続する。史跡保護のため通常は立ち入りできない管理棟跡に仮設の見学台を作り、風穴を見下ろせるようにする。風穴からは離れるため体感できる冷風は弱まるが、蚕種貯蔵施設としての構造をより理解しやすくなる。
修復期間はイコモスの現地調査と重なることが予想される。県世界遺産推進課は「丁寧な調査で解明した工法を基に、模範的な保存修理が行われる。風穴の機能を保持した状態での修復作業を見てもらうことは価値がある」と説明する。
荒船風穴を調査している町歴史民俗資料館ふるさとセンターの秋池武所長は「石積みを元に戻すだけでなく、今後の風穴の管理や活用でも石積み構造の調査成果を生かす必要がある」と話している。
【豆字典】
荒船風穴 岩の隙間から吹き出す冷風を利用して蚕種(蚕の卵)を貯蔵した施設で、明治後期から昭和初期まで操業。冷蔵することで蚕種のふ化を遅らせ、当時年1回だった蚕の複数回飼育を可能にし、繭の増産に貢献した。石積み3基が現存し、今も冷風が吹き出している。1号風穴の石積みの一部が2010年に崩落。下仁田町教委は原因究明と復旧作業に向けた調査を進めていた。積雪や道路凍結が懸念されるため、3月末まで閉鎖している。