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《ひと紡ぎ まち紡ぎ・・・絹遺産と歩む・・・第2部 保存と活用 》(3)復元目指す高山社跡 清温育の蚕室公開

高山社跡2階の蚕室。将来の公開に向けた計画が動き出す
高山社跡2階の蚕室。将来の公開に向けた計画が動き出す

「本来なら養蚕をやっていた2階を見てもらいたい。でも、階段は急で狭くて危ない。床の強度も十分かどうか」。藤岡市高山の世界文化遺産候補、高山社跡でガイドを務める杢師(もくし)昌弘さん(69)は、現状で来場者に2階を案内できないことを惜しむ。

◎急な箱階段

明治から大正にかけて先進的な養蚕教育機関としての役割を果たした高山社。高山社跡は、蚕室を暖めたり風通しを良くして蚕の飼育環境を管理する「清温育」を提唱した高山長五郎の生家だ。

1891(明治24)年に建築された母屋兼蚕室の2階、蚕室に上ると清温育の痕跡があちこちに残っている。室内を暖めるために火鉢を置いたくぼみ。すのこ状で風が良く通る「コマガエシの天井」。天井の隙間からは、新鮮な空気を取り入れる櫓(やぐら)がのぞく。一目で清温育の仕組みと当時の養蚕の様子を見て取れる。

だが、建物を管理する市教委は原則として2階を公開していない。2階に上る唯一の経路は、側面に引き出しの付いた「箱階段」。段差が約30センチもあって急な上り下りになる上、1段の奥行きは20~25センチしかない。大人の場合、体を横向きにしないと上るのは難しい。

文化財の場合、手を加えず現状保存するのが原則。このため市教委は階段に手すりを付けることは考えていない。2階の床も老朽化しており、踏むとぎしぎしと鳴り、へこむ所さえある。こうした事情から、現在は見学範囲を1階のかつての生活の場や関連資料を展示した部屋などに限っている。

◎16年めどに着手

来場者のニーズにどう応えるのか。市教委文化財保護課は3月、高山社跡の整備活用基本計画をまとめた。本年度中に2階の耐震診断を行い、当面は安全なら箱階段で2階に上がってもらい、状況次第で建物裏側に外階段を設けて窓越しに2階を見てもらう案も浮上している。

2010年まで住人が生活していた高山社跡は改築が繰り返されたため、「明治期のものとはかけ離れてしまっている」(同課)状態。建設当初の姿に戻すため、計画では16年度をめどに大規模な復元・修理に着手する予定だ。

整備の柱は玄関付近にあった階段の復元と屋根の瓦から板への葺き替えの2点。3年程度で行う方針で、これにより最大の懸案である2階の蚕室の見学が可能になる。

市教委が整備とともに知恵を絞るのが「清温育による養蚕の様子を見学できる」展示だ。将来は蚕を持ち込んで飼育現場を見てもらうことも考えている。通気と加温で蚕がよく育つ飼育法を確立し、その技術を惜しみなく全国に広めた高山社。そんな先人の精神をも伝える施設にするため、模索は続いている。

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