《ひと紡ぎ まち紡ぎ・・・絹遺産と歩む・・・第2部 保存と活用 》(4)整備模索する荒船風穴 冷風機能と一体で
- 掲載日
- 2013/04/23
崩落部分の石の積み直しが予定されている1号風穴
岩場から吹き出す冷風を利用して蚕種(蚕の卵)を貯蔵し、養蚕業の発展を担った下仁田町南野牧の国史跡「荒船風穴」。規模の大きさを示す石積み遺構に加え、冷風を生み出す要因となっている周囲の自然環境も、この特殊な産業遺産の価値の一つになっている。
◎石積み戻す
現存する3基の石積み遺構のうち、最も保存状態の良かった「1号風穴」の一部が2010年に崩落した。原因の一つは長期間にわたって石積みのすき間に流れ込んだ土砂。町教委は石積みの構造を解明し、6月ごろから石を積み戻す作業に入る。
ただ、今後どういったコンセプトで風穴全体を整備していくかは構想すら固まっていない。遺構だけでなく、冷風が出る機能を維持したまま整備できるのか。操業時のように建屋を復元するなら、資料収集も必要だ。国史跡となった産業遺産としての風穴整備は前例がなく、荒船風穴がモデルケースとなる。
風穴を調査している町ふるさとセンター所長、秋池武さん(68)は「冷風を発生させている風穴の範囲とはどこまでかも明確ではない。荒船風穴は自然と一体ということを踏まえて整備構想を練る必要がある」と特殊性を説明する。
町教委は冷風のメカニズムに迫る調査にも取り組んできた。 2年以上にわたって温度や風力を測定。その結果、地形と自然岩塊の材質、春の雪解け水や雨が影響していることが分かってきた。この夏をめどに報告書をまとめる方針だ。 「冷風の謎が解明できれば、将来の開発や整備に対処できるかもしれない」。秋池さんは期待を込める。
◎タクシー検討
史跡の保護に加え、世界遺産登録に向けた観光客増にいかに対応するかも問われている。長野県境に近い荒船風穴へは、下仁田町の中心街から車で約30分かけて狭い山道を行く。対向車とすれ違うための待避所は完成したが、現地に行ける公共交通はなく、今は見学者が個々に車で乗り入れるしかない。
見学者数は、町教委の推計で2011年度は約千人。昨年度は約2160人と倍増した。とはいえ、「どれだけ観光客が来るか予測がつかない中、道の拡幅や路線バス整備には踏み切れない」(町企画財政課)。当面、町は観光タクシー導入の準備を進め、近場の観光地である神津牧場を経由したルートにすることを検討している。
無秩序な観光開発は厳禁だが、過疎の町にある荒船 風穴は貴重な観光資源だ。「大勢の観光客を一気に受け入れることはできなくても、ロングセラーを目指すイメージ」と県世界遺産 推進課長、松浦利隆さんは説明する。観光で地域経済が潤えば、結果的に産業遺産の維持・管理にも力が入れられる。見学者を遠ざけるわけにはいかない。