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《ひと紡ぎ まち紡ぎ・・・絹遺産と歩む・・・第2部 保存と活用》(8)姿消す櫓付き養蚕家屋 住まいに歴史の跡

かつて高山社の分教場だった養蚕家屋。三つの櫓、蚕室も残っている=藤岡市本郷
かつて高山社の分教場だった養蚕家屋。三つの櫓、蚕室も残っている=藤岡市本郷

天窓、越屋根とも言われる換気用の櫓(やぐら)が張り出した瓦ぶき総2階建ての近代養蚕家屋。江戸期に多く見られた平屋建て住居は明治以降、換気や温度管理を重視して2階に蚕室を持つこの建築様式へと変わっていった。絹の国の本県を象徴する建物だが、養蚕が衰退していく中で伝統の家屋は年々姿を消している。

県教委は2008~11年度、近代和風建築総合調査として明治以降の建物を原則に住宅や社寺、温泉旅館などを調べた。1次調査の1239件の8割、993件が住宅で、そのうち6割を占めたのが養蚕家屋だった。

調査を担当した県文化財保護審議会専門委員の村田敬一さん(64)=玉村町板井=は、県の重要文化財や史跡に櫓付きの近代養蚕家屋が1件も指定されていないことを指摘。「多くは個人所有で、今も住宅として使われている。建物の価値も十分に分かってもらえていない」

◎重文、史跡指定

これらの養蚕家屋を残すすべはあるのか。県教委文化財保護課は、早ければ2、3年後をめどに調査済みの養蚕家屋を中心に国や県の重文、史跡指定を進めていくという。県重文になると改修に規制が掛かる一方で費用の7割を県が助成する。資金面から保存を支援していく考えだ。

「合併前の旧70市町村に一つずつくらい養蚕家屋を文化財として指定したい。調査を通じて所有者が建物の価値を理解してくれれば保存につながる」。村田さんは、より詳細な調査の必要性を訴える。

村田さんは世界遺産候補の養蚕教育機関、高山社跡(藤岡市)を顕彰する住民グループ「高山社を考える会」と藤岡近隣の高山社の分教場24件について歴史や建物の概要を調べ、先月、市教委の協力で報告書をまとめた。

◎母との思い出

その分教場の一つで1899(明治32)年に建てられ、蚕種製造の「神流館」だった母屋兼蚕室で暮らす中里多喜夫さん(72)、郁代さん(70)夫妻=同市本郷=は10年ほど前に老朽化した屋根瓦を改修した。

既に養蚕をやめて久しいが、この家で生まれ育った郁代さんには母親と蚕を育てた思い出がある。だから養蚕家屋の象徴だった三つの櫓も残した。「訪ねて来た人が見て懐かしいと言ってくれる」(郁代さん)。愛着を語る一方で、夫妻は「自分たちはこの建物に思い入れがあるが、10年、15年後にはどうなっているか分からない」と将来を不安視する。

世界遺産候補の4資産だけを保存活用するのが、世界遺産登録運動の目的ではない。何代にもわたって先人が築き上げてきた絹産業の歴史を正しく認識し、県民としての誇りを持って未来に引き継いでいくことが大切だろう。そのためにも、最も身近な繭の生産現場だった養蚕家屋を残していかなければならない。

(おわり)

富岡製糸場(富岡市) 田島弥平旧宅(伊勢崎市) 高山社跡(藤岡市) 荒船風穴(下仁田町)