富岡製糸 来年審議 地元、期待と緊張 前進に一安心/準備期間わずか
- 掲載日
- 2013/05/02
国際記念物遺跡会議(イコモス)が30日、富士山の世界遺産登録を勧告したことで、2014年の世界文化遺産登録を目指す「富岡製糸場と絹産業遺産群」は予定通り来年審議される公算が大きくなった。勧告から一夜明けた1日、富岡市をはじめとする構成資産の地元では期待が広がった。一方で今夏にも行われるイコモスの現地調査を控え、各資産の環境整備や住民への啓発を急ごうと気を引き締める声もあった。
1日の富岡製糸場は大型連休中とあって、平日ながら県外からも観光客が訪れた。場内をガイドする解説員が富士山の登録勧告を受けて富岡製糸場の世界遺産登録が間近に迫ったことを説明する場面も。東京都の男性(68)は「3年前に来た時と比べ、だいぶ観光しやすくなった。早く世界遺産になるといいね」と話した。
今回の勧告を受けて国内候補地との競合で富岡製糸場の世界遺産登録の手続きがつまずく可能性は低くなり、構成資産を抱える4市町はほっとした様子。観光客の受け入れへ、環境整備を急ぐ考えを示した。富岡市の岡野光利市長は「登録に近づいたとは思うが、まずは今夏のイコモスの現地調査にしっかりと対応したい」と気を引き締めた。
イコモスは、富士山を「三保松原の除外」を登録条件にし、鎌倉については「登録はふさわしくない」と勧告するなど厳しい評価を下している。「荒船風穴」のある下仁田町の金井康行町長は「富岡製糸場の価値は、ほか三つの構成資産なくしては考えられない。足を引っ張らないよう整備を進めたい」と話した。
現地調査は8~9月ごろとされ、準備期間は残りわずか。構成資産の啓発に取り組む住民団体は、住民の熱意で世界遺産登録を後押ししようと意気込む。
高山社跡(藤岡市)を顕彰する市民団体「高山社を考える会」の小坂裕一郎会長(58)は「富士山はこの数年でごみがなくなり、きれいになった。市民の熱意が登録につながったのでは」と推測。田島弥平旧宅(伊勢崎市)のガイドを務める「ぐんま島村蚕種の会」事務局の栗原知彦さん(71)も「住民すべてが世界遺産に目を向けるまで達していないが、粘り強く働き掛けたい」と話す。
NPO法人「富岡製糸場を愛する会」の高橋伸二理事長(72)は「古い工場はほかにもあるが、世界に絹の大衆化をもたらした富岡製糸場は別格。価値を理解している人は少なく、来年の登録へ啓発に努めなければならない」と強調した。