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《論説》富士山の登録勧告を受けて 冷静で粘り強い対応を

「富士山」が世界文化遺産に登録される見込みになった。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)が条件付きで登録を勧告した。6月のユネスコ世界遺産委員会で正式決定する。まずはこの勧告を歓迎したい。

一方、日本政府が同時に推薦した「武家の古都・鎌倉」については、残念ながら、登録しないよう勧告した。

勧告の内容によっては、本県の「富岡製糸場と絹産業遺産群」の審議が1年先送りになる可能性があったが、結果として、予定通り、来年夏の世界遺産委員会で登録の可否が決められる見込みになった。たとえ延期されたからといって遺産の価値に変化はないが、登録に向けた運動に影響を与えかねなかったことを考えれば、まずは大きな前進と受け止められる。

そのうえで、今回の勧告を含め、近年の登録状況から得られた教訓を整理したい。

まず、今夏以降に行われるイコモスの現地調査後、思いもかけない注文があり得るということだ。富士山の場合、イコモスは勧告を前にして、名称変更と構成資産「三保松原」の除外を求めてきた。これに対して文化庁は、名称変更には応じたが、資産の除外は拒否した。

そして実際に勧告でも、三保松原の除外が条件となり、保全管理についても細かく注文がついていた。静岡県は「三保松原と富士山が一体だということを理解されるよう最後まで努力する」としているが、難しい判断を迫られている。

仮に同様な事態に直面したとすれば、冷静に、臨機応変に対応する必要があるだろう。そして変更の要請があったとしても、譲れない内容であれば、普遍的な価値を理解してもらうよう訴えていく考え方もあっていいのではないか。

これに加えて求められるのは、要請や判断に対して、粘り強く対応する姿勢である。

石見銀山と平泉は、イコモス勧告では記載延期だったが、石見銀山は勧告に反論し、巻き返して登録。平泉も推薦書を出し直し、3年後に登録を実現した。

ユネスコが文化遺産の新規登録を絞り込んでいるなか、今後も相当に厳しい局面が想定できる。

仮に登録の道が開かれたとして、考えなければならないのは、国際的な認知に伴う国内外からの観光客の増加である。富士山では、登山客の急増が懸念されており、安全で快適な登山のための体制強化に取り組むという。

富岡製糸場と絹産業遺産群の登録審査スケジュールが見えた今、本県でも世界遺産にふさわしい受け入れ態勢づくりが急務である。遺産の保存・活用、存続の危機に立つ蚕糸業の振興など、課題、難題が山積している。それらを一つ一つ克服し、絹文化を守り次代へと継承する取り組みをさらに盛り上げて、登録へとつなげていきたい。

富岡製糸場(富岡市) 田島弥平旧宅(伊勢崎市) 高山社跡(藤岡市) 荒船風穴(下仁田町)