《ひと紡ぎ まち紡ぎ・・・絹遺産と歩む・・・第3部 地域振興》(1)富岡のまちづくり 製糸場核に力結集
- 掲載日
- 2013/06/03
富岡市中心街のもてなし拠点として5月31日にオープンした観光物産館「お富ちゃん家」
来年夏のユネスコ世界遺産委員会で、本県の「富岡製糸場と絹産業遺産群」の世界文化遺産登録が審議される見通しとなった。世界遺産ブランドの力をどう生かし、地域づくりや観光振興につなげるのか。各地の取り組みを追った。
歌声喫茶、地元グルメの裏情報、CMづくり、ブログやフェイスブックでの富岡市の魅力発信―。来場者に楽しんでもらえるまちづくりを市民主体で考える「富岡まちづくり・ひとづくりプロジェクト」(市など主催)はことし3月、報告会で15の地域づくり企画を打ち出した。今後、市民の力を結集して実現の可能性を探っていく。
◎商店素通り
プロジェクトのワークショップ(WS)が動きだしたのは昨年6月。「コミュニティーデザイン」という手法で実績を上げてきた山崎亮さん率いる「studio―L」(大阪市)からノウハウ提供を受け、20代から70代の 有志80人が地域の課題と魅力をまとめた。
昨年度の旧官営富岡製糸場入場者数は、前年度比2割増の28万7338人。しかし、大半は周辺の商店に立ち寄ることなく素通りしていく。「片倉工業が操業していたころの方が、街に活気があった」。中心街に飲食店を構える女性からは、こんな声も漏れる。交流施設や土産物店の集約が見られるとはいえ、市民が経済的な恩恵を感じるにはほど遠い状況だ。製糸場に一極集中する来場者と経済効果をどう地元に取り込むのか。
市が5月にまとめた観光戦略は、鍵となる素材に食や街並み、自然といった地域資源と住民や商店主のもてなしを掲げた。これらを世界遺産のある街にふさわしい商品として磨き上げていく上で欠かせないのが住民の協力だろう。
昭和の面影を伝える古い街並みに対し、かつては市民の間でさえ「物足りない街」といった冷めた見方が広がっていた。だが「製糸場が注目を集めるにつれ、地元愛に気付く人が増えてきた」(市まちづくり課)。5月に募集したWSの新規メンバーには、東京や横浜など県外在住の富岡出身者が名を連ねる。
◎過度な投資
これまでも地域活性化に向けた取り組みはあった。ただWSをきっかけに個々の力がまとまりつつある。市民団体「富岡げんき塾」塾長、入山寛之さん(44)は「行政や誰かが頑張るのを応援するだけじゃなく、"自分たちでやる"という雰囲気を感じる」と話す。
「世界遺産は大きな力を持っており、たくさんの人が訪れる。けれど爆発的なブームが終わった時、街並みから何もかも持ち去ってしまうこともある」。山崎さんは、報告会でこう警鐘を鳴らした。過度な投資が地域の疲弊を招く恐れもある。求めるのはコンスタントに観光客が訪れ、持続的に豊かに暮らしていける街だ。「だから『この街で幸せになる』と確固たる信念を持った人たちの集まりが大切になる」(山崎さん)。
WSが掲げた目標は「5万人が主人公 笑顔あふれるとみおか」。「絹の国」を象徴する製糸場と街全体で、来場者にどんなイメージを植え付けられるのか。「富岡」という街が評価を突きつけられる時は、刻々と迫っている。
(4日から社会面に掲載します。)