《ひと紡ぎ まち紡ぎ・・・絹遺産と歩む・・・第3部 地域振興》(3)弥平旧宅と境島村 広域観光県境越え
- 掲載日
- 2013/06/05
縁側で蚕を飼う金井拓美さん。地域ならではの土産品開発を目指す
5月23日に掃き立てた卵約1万粒は、体長1センチほどの蚕に育っていた。世界遺産候補、田島弥平旧宅(伊勢崎市境島村)の近く、金井義明さん(70)宅の縁側。妻の拓美さん(64)は「島村らしい繭の土産品を作りたかった。蚕から飼えば、いくらでも繭ができると勧められた」と笑った。桑は住民グループ、ぐんま島村蚕種の会(田島健一会長)が弥平旧宅近くに植えた見本桑園から分けてもらう。経験ゼロから挑んだ養蚕は5年目を迎えた。
拓美さんが作ろうとしているのは、養蚕信仰として地元に伝わる「オキヌサン人形」だ。明治中期、神奈川県が発祥とされ、多くの養蚕農家がオキヌサン人形を作って繭の多収を祈った。
◎「オキヌサン」
利根川右岸に広がる境島村地区は純農村地帯だ。弥平旧宅以外にも屋根に通気用の櫓(やぐら)を載せた大型養蚕家屋が建ち並び、蚕種(蚕の卵)の大産地として栄えた歴史を伝えている。しかし弥平旧宅周辺にはコンビニも飲食店もなく、昨年9月にはJAしまむら支所が統廃合で閉鎖された。地域の活力が失われつつある中で、「世界遺産」をカンフル剤として生かす術はあるのか。
2012年11月、市はこの地区を市景観計画に基づく景観重点区域に指定。建築物の高さや屋根の形態、色彩に制限を設け、養蚕家屋群と不釣り合いな建築物や看板の設置を規制した。養蚕の原風景とも言える景観を守る―。そんな意識でまとまった住民が活性化策を探っている。
ことしになって拓美さんは映画会や講演会、着物ウオークを企画。その熱意に共感した中山実さん(65)は仲間3人で音楽ユニット「シルク」を結成し、養蚕家屋群の見学会を兼ねた歌声喫茶イベントを始めた。
◎本庄と深谷
一方で中長期的なまちづくりも動きだした。市の呼び掛けで、区長や各種団体で組織する市境島村まちづくり推進会議が昨年9月に発足。地区の将来像を定めていく中で、要望が多かった埼玉県本庄市、深谷市との連携は徐々に実を結ぶ。
弥平旧宅から約2キロの深谷市血洗島は富岡製糸場と縁の深い渋沢栄一の生地だ。近くには初代場長だった尾高惇忠(あつただ)の生家もある。伊勢崎市は隣接両市にある"関連資産"もPRしており、広域観光に弾みをつけたい考えだ。
まちづくり推進会議では今月7日、女性部会が初会合を開き、「おもてなし」をテーマにしたワークショップが始動する。メンバーとなる拓美さんは「土産品は住民が力を合わせれば作れる。でも交通の便を改善するのは行政でないとできない」と指摘する。世界遺産候補の境島村へようこそ―。都心からの誘客を想定すると、県境を越えた連携は待ったなしの課題だ。