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《ひと紡ぎ まち紡ぎ・・・絹遺産と歩む・・・第3部 地域振興》(4)山中にある荒船風穴 町活性化の呼び水に 

荒船風穴との連携で周遊観光の核になると見込まれる神津牧場。風穴はさらに山に入った場所にある
荒船風穴との連携で周遊観光の核になると見込まれる神津牧場。風穴はさらに山に入った場所にある

ネギ、コンニャク、妙義山、神津牧場―。これらの特産品や名所に比べ、世界遺産候補、荒船風穴(下仁田町南野牧)は知名度で大きく後れを取る。5月の大型連休中、風穴の来場者は最も多い日で78人。3千人が訪れてにぎわった富岡市の旧官営富岡製糸場とは大差がついた。

◎狭く険しい道

風穴は岩から吹き出す冷気を閉じ込め、蚕種(蚕の卵)を保存した場所だ。「来て、冷気を感じて、ガイドの説明を受けて初めてその価値と魅力が分かる。もともと観光スポットとしては地味」(金井康行町長)という素材を、町の活性化の呼び水にできるのか。

国道254号から、長野県境に近い風穴への道筋は二つ。いずれも県道下仁田浅科線で、地元の屋敷地区を抜ける道と、風穴の約3キロ西にある神津牧場から回り込むルートがある。どちらも狭く険しく、交通事故を心配する声は多い。

「風穴も見に行きたかった。でもすれ違いが困難な道は運転したくない」。今月2日、孫を連れて牧場を訪れた武井和馬さん(71)=高崎市吉井町=は、風穴まで足を延ばすことなく帰っていった。

観光開発が難しい険しい山中にあるというハンディは小さくない。こうした中で町は7月、風穴へ向かう観光タクシーを始める。町内業者に補助金を出して運行を委託するもので、妙義山や地質学的な見どころ「ジオサイト」などを周遊。点在する観光スポットを線で結ぶ試みだ。今夏にも世界遺産登録の審議に向けた現地調査が予定され、PR効果が期待されるものの、本年度当初予算に盛り込んだタクシー補助金は約270台分にとどまる。

◎牧場との連携

「観光客は間違いなく増えるだろうが、それがどれくらいの規模になるのか」(町企画財政課)。町はニーズがあれば助成枠を拡大していくつもりだが、担当者は不安もにじませる。

神津牧場から回り込んだ場合、牧場に車を止めて歩くと風穴まで30分ほど。町は年間8万人が訪れ、広い駐車場に大型バスも入れる牧場と風穴の連携が観光戦略の核になると見ており、風穴へ向かう人には牧場を経由する道を案内することにした。場長代理の須山哲男さん(63)も「どちらも自然と人間の関わりを存分に体感できる。協力は惜しまない」と呼吸を合わせる。

風穴のある屋敷地区は過疎と高齢化が進み、現在7世帯が暮らすのみ。風穴を管理していた神宮馨さん(82)がぽつりとつぶやいた。「世界遺産で集落が発展すればいいけど、簡単なもんじゃないな」

地元住民として、風穴の世界遺産登録を待ち望む。けれどもそれで何が変わるのか。地域、そして町の活力アップにつながる具体的な手だては、見えてこない。

富岡製糸場(富岡市) 田島弥平旧宅(伊勢崎市) 高山社跡(藤岡市) 荒船風穴(下仁田町)