《ひと紡ぎ まち紡ぎ・・・絹遺産と歩む・・・第3部 地域振興》(7)富岡へのアクセス 誘客へ2鉄道連携
- 掲載日
- 2013/06/09
富岡製糸場の玄関口として、新駅舎の建設が進む上信電鉄上州富岡駅
避暑地として知られる長野県軽井沢町。首都圏から上信越道経由で訪れる観光客も多く、街歩きやショッピングを楽しむ人でにぎわう。2011年度の年間観光客数約770万人の大観光地は、県境を越えてすぐそこにある。
◎新駅舎の完成
とみおか観光まちづくり推進協議会事務局の松原千哲(ちあき)さん(47)は09年、軽井沢で観光客に行った調査の「想定外」の結果に肩を落とした。「富岡を知らない」「知っているが、行ったことがない」を合わせた回答が7割に上ったのだ。
富岡製糸場を持つ富岡市を、このまま素通りさせるわけにいかない。しかし、軽井沢町の条例で街頭でのPR活動は禁じられている。パンフレットを置くだけで、観光客に直接アプローチできない状態が続く。「知名度ではかなわない。けれど世界遺産登録の注目度を強みに、軽井沢と対等な連携を探りたい」。松原さんは、攻めに転じる機会をうかがう。
上信越道とともに、富岡へのアクセスの両輪を担うのが鉄道だ。製糸場の玄関口となる上信電鉄上州富岡駅は、年内にも製糸場をイメージした新駅舎が完成する。
観光客の取り込みが期待される上信電鉄だが、定期利用を除く上州富岡駅の年間乗降客数はここ数年、9万8千人台で横ばいが続く。同社総務部長の宮川良伸さん(52)は「普段の乗客増加につながっていない」と、もどかしそうに話す。
そんな中、製糸場見学と高崎―上州富岡駅間の往復をセットにした割引乗車券は、過去最高の約6200枚(12年度)を上回るペースで売れている。今後、沿線名所ツアーの企画などを想定し、具体的な誘客策を検討していくという。
◎軽井沢を警戒
県や沿線市町村の支援を受ける上信電鉄にとって、世界遺産登録は千載一遇の好機だ。下仁田駅を経由して絹産業遺産群の一つ、荒船風穴(下仁田町南野牧)にも客を導きたい。
一方、JR東日本高崎支社はことし3月、観光開発や営業など10人ほどのチームで誘客策の研究に乗り出した。そうした中で製糸場見学を手短に済ませ、軽井沢方面へ向かうという観光客の流れを警戒。県内の他の見どころを周遊してもらうためにも、駅で降りた後の客の足の確保が不可欠とみている。
11年夏の大型観光企画「群馬デスティネーションキャンペーン」では、JRと県内私鉄の協力が効果を発揮した。JRと上信電鉄の連携でどう観光客を呼び込み、そこからどう全県に誘導していくのか。
かつて製糸場の生糸を世界に向けて輸出する横浜港へ運んだ2本の路線。今度は世界の宝に観光客を呼び込む鉄路として、つながることができるだろうか。真価が問われる時期は、もう間近に迫っている。