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「富岡製糸場と絹産業遺産群」Web

世界遺産目指す伊の産業遺産 専門家が富岡製糸場で紹介

エンリコ・ジャコペリさん(トリノ工科大特任教授)
エンリコ・ジャコペリさん(トリノ工科大特任教授)

地域の近代化遺産の保存活用をテーマにした全国近代化遺産活用連絡協議会の富岡大会が、富岡製糸場で開かれた。世界文化遺産登録を目指すイタリア北部のイブレア市に残る産業遺産について、保存や世界遺産登録に関わる専門家2人が講演した。要旨は次の通り。

◎不適切な改修を抑制

エンリコ・ジャコペリさん(トリノ工科大特任教授)

「イブレアの近代建築遺産の保護に関するマネージメント~デザインガイドラインの役割」

イブレア市は人口2万5千人の小さな町だが、20世紀に入り、タイプライター製造のオリベッティ社が生産活動の一大拠点とした。古代ローマから中世の建造物と、同社関連の近代建築遺産の新旧の遺産が残っている。

建築に思い入れがある同社は、1930年代から市を実験場に、企業の社会的責任として生産システム全体が目指すべき美と調和の研究を進め、そのための建築を行った。質の高い建物を福利厚生のため社員に再分配、地域にも提供した。

昨年までの調査で、市内の近代建築260件を確認。産業施設だけでなく学校、宗教施設、住宅も建築した。96年には同社の最後の建築が行われ、同時に老朽建物の保存修復活動が市を中心にスタート。衰退する地域のアイデンティティーと経済的な役割を維持しようと、同社の都市整備方針に基づき、遺産の保存プログラムが作られた。

近代建築の保存活用を目的とする近代建築博物館プロジェクトも始動。重要な建築遺産の目録を作り、直接建物を体験する「屋外博物館」を通り沿いに建設、不適切な改装などから保護するためのデザイン・ガイドラインを作成した。

市内の建築遺産の多くは民間所有で、国の文化財に未指定。市民は建物を実用面でしか評価しておらず、指針作成は緊急課題だった。指針の根底には脱官僚主義がある。理想と達成可能なことの妥協点を見いだす上で指針は機能し、不適切な改修を抑制することにつながった。

パトリツィア・ボニファツィオさん(ミラノ工科大研究員)
パトリツィア・ボニファツィオさん(ミラノ工科大研究員)

◎工業都市の変容提示

パトリツィア・ボニファツィオさん(ミラノ工科大研究員)

「近代都市の文化遺産としての真正性に関する新しい概念への挑戦」

過去の遺産と向き合うには単に保存するだけでなく、現代の中で遺産がどういう意味を持つか考えることが大切だ。2008年、オリベッティ社の誕生100周年記念式典が行われた。同社財団はミラノ工科大などと国立委員会を発足させ、イブレア市の世界遺産登録運動が始まった。

イブレアの近代遺産は昨年、世界遺産暫定リストに記載された。価値を検討する中で、過去の遺産の保存だけでなく、都市をどのように変容させていくかを議論。提出した暫定案では、20世紀における工業都市の最も興味深い事例としてイブレアを捉えている。

市には同社関係の建築遺産が残っている。市民にも同社の文化的事業を理解し、歴史的価値を見直してもらうため、住民も巻き込んで市の過去を検証した。

オリベッティ本社はイブレアと隣町との境界にあるが、隣町の建物は壊されてしまい、世界遺産登録に不可欠な遺産の完全性と真正性に影響を与えた。

市には近代的な生産設備だけでなく、古くからの美しい景観や自然が残る。単純な企業城下町ではなく、歴史的な地域に工業都市の性格が継続的、有機的に加わってできた。地層のように時代のニーズを反映して都市計画が重ねられたものだ。

暫定案では、都市の形態学や自然も考慮してコアゾーンを設定。ユネスコは近代遺産に関連して「歴史的な都市景観」という研究テーマを提案しており、今後注目すべき強力な概念になる。

富岡製糸場(富岡市) 田島弥平旧宅(伊勢崎市) 高山社跡(藤岡市) 荒船風穴(下仁田町)