資産保全へ県民一体 イコモス現地調査
- 掲載日
- 2013/09/26
イコモス調査を歓迎する富岡製糸場を愛する会の張り紙=情報発信拠点「絹ごよみ」
来年夏の世界文化遺産登録を目指す「富岡製糸場と絹産業遺産群」にとって重要な2日間が25日始まった。登録に大きな影響力を持つユネスコ諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」の現地調査だ。資産の価値が伝わるように―。四つの構成資産を応援してきた団体関係者や地元は、期待と緊張が入り交じった中で調査の日を迎えた。
最初に調査が行われた富岡製糸場。岡野光利市長は25日の会見で「資産の保存管理に理解を得られるよう説明したと報告を受けた」と手応えを語り、今後は見学者の安全対策や建物の保全を進める考えを示した。
◎「関心伝わった」
製糸場では見学者がいるさなかに調査が行われた。富岡製糸場解説員の会の関利行会長(84)は「多くの人が関心を持っていることが伝わったと思う」とほっとした表情を浮かべた。
周辺には調査を歓迎する張り紙も見られた。NPO法人富岡製糸場を愛する会は、情報発信拠点「絹ごよみ」に「歓迎! イコモス」と掲げた。高橋伸二理事長は「遺産を守るには、住民の姿勢が重要。啓発活動を強化したい」と意気込む。
イコモスの現地調査が行われた富岡製糸場の入り口には日中の国旗が掲げられた
同じ25日に調査を終えた田島弥平旧宅(伊勢崎市)の関係者にも安堵(あんど)が広がった。弥平旧宅の見学会や歌声喫茶などの活動で境島村を盛り上げているみちくさ塾代表の金井拓美さん(64)は「遺産の保全や住民の高齢化などの課題に、若い世代を巻き込み活動したい」と気を引き締めた。
同市の境島小学校で養蚕教育に協力してきた、ぐんま島村蚕種の会事務局の関口政雄さん(80)は「島村が注目されることが刺激となり、蚕を飼う人が増えれば」と思いをはせる。
◎おもてなしの心
高山社跡(藤岡市)と荒船風穴(下仁田町)の調査は26日。高山社跡では市教委職員とガイドが「おもてなしの心を大切にしたい」と敷地内や駐車場を清掃した。
藤岡市の女性グループ「まゆ花の会」は定期的に高山社跡を清掃し、蚕室に繭玉で作った飾りを展示。斉藤喜美子会長(78)は「気持ちよく見学できるよう応援してきた。しっかり調査を」。市民団体の「高山社を考える会」の小坂裕一郎会長(58)は「高山社は先進的な養蚕技術を国内外に惜しみなく伝え、皆で豊かになることを目指した。その精神が詰まった遺産を見てほしい」と強調した。
荒船風穴のボランティアガイドを務める「荒船風穴・下仁田ジオ応援団」の石井利子さん(59)は「蚕の卵を貯蔵した風穴は養蚕の要。近代産業を切り開いたフロンティアスピリットを知って」と力を込めた。
遺産群の価値を伝える活動をしている富岡製糸場世界遺産伝道師協会の近藤功会長(72)は「調査は世界遺産への大きなステップ。県民の支えも含めて4資産がしっかり保存管理されていることが調査員に伝わるといい」と期待を込めた。
◎富岡製糸場に休日並み1626人
イコモスの現地調査が行われた富岡製糸場では25日、団体客を中心に休日並みの1626人が訪れた。入り口に日中の国旗が掲げられ、調査員で中国国立シルク博物館館長の趙豊(ツァオフェン)氏を歓迎。現地調査が行われていることを解説員が観光客に紹介する場面もあった。
西川実さん(43)=神戸市=は「一度来てみたかった。まさか現地調査に居合わせるなんて。登録されるといい」と期待を込めた。
旧赤城村出身で実家で養蚕をしていた寺西ゆき江さん(68)=埼玉県狭山市=は「ずいぶん人が多いと思ったが、大事な日だったんですね」と納得していた。