絹の文化、歴史理解 現地調査2日目 県や市町と対応協力 石野氏 タブレット有効活用 松浦氏
- 掲載日
- 2013/09/27
質問に答える県世界遺産推進課の松浦利隆課長
世界遺産候補「富岡製糸場と絹産業遺産群」について、ユネスコの諮問機関イコモスによる現地調査が26日終了し、文化庁文化財部の石野利和部長や同部世界文化遺産室の西和彦文化財調査官、県企画部の反町敦部長、県世界遺産推進課の松浦利隆課長らが記者会見した。主なやりとりは以下の通り。(敬称略)
石野 イコモスの現地調査はスケジュール通り円滑に行われた。調査員はイコモスの規則により評価についてコメントできないので、私もその評価を述べることはできないが、感触としては富岡製糸場と絹産業遺産群に一定の理解が得られたと考えている。
調査員からは多くの質問を受けたが、県、市町も的確な説明をしてくれた。
調査員とのやりとりで、関心が高かったと思ったことが4点ある。1点目は各構成資産の範囲、境界線について。2点目は各構成資産の保全管理の在り方、保全管理についての関係者の役割分担。3点目は富岡製糸場とほかの3資産との関連性。4点目は絹の生産システムの全体像で、養蚕から製糸にいたるまでのシステムの全体像を理解するためのプレゼンテーションについて関心が強かった。
今回の現地調査の結果と政府が出した推薦案を踏まえて、イコモス全体として審査され、来年5月ごろにイコモス勧告が公表されるが、それまでにイコモスや調査員から追加的な情報提供の依頼があれば、文化庁としても県や市町と協力して対応したい。
調査概要を説明する文化庁文化財部の石野利和部長
―4点目のプレゼンテーションは、現地で説明した内容に興味を持ったのか。
石野 世界遺産に登録される場合は、全体としてのプレゼンテーションを訪問者や国民に理解してもらうことが大切だという観点からの関心ということ。今でも十分説明されていると理解している。
―富岡製糸場とほかの3資産の関連性に関心を持ったと言うが、具体的には。
石野 富岡製糸場は遺産の中核的な役割を担っているが、田島弥平旧宅での新しい養蚕の方法、高山社の教育訓練、荒船風穴の蚕種などは製糸場の機能とどう関係しているのか。
製糸場と3資産の具体的な結びつきについて理解したいと思っていたようだ。
―富岡製糸場での説明にタブレット端末を使っていたが、分かりやすく説明するための工夫は。
松浦 大きく引き伸ばした写真を掲げ、今は無くなった建物などを示した。製糸場のような広い場所では、今どの位置にいるのか、どの方向を見ているのかを地図や写真で示すことが有効と考えた。タブレットは大量の写真をその場で選んで示すことができ、新しい試みではあったが文化庁と協議して取り入れた。
―調査員とのやりとりで新たに感じた課題は。
松浦 専門家に違った角度から見てもらい、これからの保護、活用にとっていろいろな知見があったのではないか。
―調査員が関心を持ったという保全管理における役割分担は、行政と市民との役割分担という意味か。
石野 役割分担は、各機関の所有者や管理団体、行政のほか、地元や民間の会の関わり方にも関心を持っていた。
―26日に現地調査した高山社と荒船風穴について、関心を持った部分は。
石野 高山社では清温育について、具体的な建物の構成などに関心があった。また、高山長五郎の墓も訪れて感慨深い様子だった。荒船風穴では下まで降りて冷風を感じてもらった。調査員の出身である中国では、荒船風穴のように冷風を利用して蚕種を貯蔵する施設はないようで、構造に強い関心を持っていた。
―今後、文化庁や県がイコモスに対してアピールする方法はあるのか。
石野 世界遺産登録は、基本的に推薦書と現地審査が審査の全ての資料。イコモスや調査員が必要な追加情報があれば、応えていく。私たちが能動的に追加資料を出すことはない。
―調査員から絹の生産システムの全体像について聞かれたのか。
西 残念ながら今の日本で、生糸がどう作られるかを理解している人は少ない。構成資産を守るには、その価値や生糸ができる過程を広く理解してもらうことが大事で、保全にもつながる。調査員はそういうことをうまく訴えることが大切だという考えだろう。
―調査員は絹の専門家だが、どんな印象か。
石野 調査員は中国でも養蚕製糸が盛んな地域で生まれ育ったと聞いている。話の端々にも感じたが、下仁田町ふるさとセンターで荒船風穴の関連説明をした際、養蚕関係の機具を見る目の輝きが違った。
―手応えを感じたか。
石野 絹の専門家に、国内の絹の文化、歴史において重要な役割を果たした本遺産の内容を理解してもらったと感じている。
―4資産が全て登録されるという自信は。
石野 富岡製糸場と絹産業遺産群というセットが、本資産の特徴を示している。調査員もその部分に関心を持ったと思う。イコモスの審査は大変厳しいが、その中で本資産についての説明は十分できたし、調査員にも一定程度理解してもらえたと感じている。