《ニュース 解体深書》「4資産」関連性を重視 イコモス現地調査終了 保全、展示 なお課題 富岡製糸場と絹産業遺産群
- 掲載日
- 2013/09/30
カメラを手に富岡製糸場で説明を聞くイコモスの調査員(中央)=25日
来年6月の世界文化遺産登録の関門となるユネスコ諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)による「富岡製糸場と絹産業遺産群」の現地調査が終わった。ほとんどが非公開だったが、文化庁によると、調査員は特に富岡製糸場と残る3資産(田島弥平旧宅、高山社跡、荒船風穴)との関連性、来訪者に絹の生産システムを理解してもらう展示解説の手法に強い関心を示したという。調査員の関心は、言い換えればイコモスが登録勧告に当たって重視するポイントとも言える。調査員の目に絹産業遺産群はどう映ったか。今後の課題とともに検証した。
◎〝復元〟が必要
調査員が興味を示したのは①遺産の範囲と境界線②保全管理の方法や関係者の役割分担③富岡製糸場と他の3資産の関連性④来訪者が養蚕、製糸の生産システムを理解するための展示解説―の4点。調査員を案内した県世界遺産推進課は、最初の2点は通常の調査事項であり「十分説明して理解が得られた」と自信を示す。
しかし、保全管理の延長線上にある、公開してその価値をどう伝えるかという整備活用については課題が残る。富岡製糸場は来場者の安全と文化財保護の両立の観点から公開部分が限られ、繭倉庫や繰糸場の耐震化はこれから。弥平旧宅と高山社跡は養蚕をやめてから改築された部分があり、世界遺産で重視される真正性の観点からオリジナルに近い状態に復元する必要もある。
「中国には風穴のような冷気を使った蚕種保存施設はない」。調査員は、冷風が吹き出す荒船風穴を視察してこう話したという。「なぜこの4資産になったのか。調査員は絹の専門家だが、一般の来訪者と同じように風穴の仕組みや他の資産との関係に興味を持った」(同課)
調査員の関心のうち、4資産の関連性と展示解説は密接に結びついており、文化庁は「来訪者に遺産群の果たした役割、養蚕から製糸まで絹生産システムの全体を分かりやすく示すことが大事」と指摘した。
◎不十分な解説
県外の来訪者の場合、大半は富岡製糸場だけを見学して他の3資産は素通りしてしまう。製糸場でのボランティア団体の解説は、時間の制約もあって他の3資産との関連まで十分に踏み込めていない。展示スペースも繭倉庫の一部に限られ、絹の最終形である銘仙といった見るだけで十分に楽しめるものはない。
富岡市は「将来の整備活用で他の3資産との関わりの展示解説を充実させていく必要がある」として、絹遺産群を紹介する「世界遺産センター」(仮称)を市内に設置するよう県に提案しているが、実現のめどは立っていない。
富岡製糸場を入り口として本県が育んだ豊かな絹の文化と歴史の全体像を伝え、県内に残る他の遺産や施設に足を運んでもらうためにも県や資産のある4市町が一体となって展示解説の整備を急がなくてはならない。
(文化生活部 紋谷貴史)
◎追加情報要請も
イコモスは文化財の専門家による国際組織で、ユネスコに代わり世界文化遺産候補の現地調査を担当する。現地調査は文化庁や県が主体的に「富岡製糸場と絹産業遺産群」をアピールできる最後の機会だった。
昨年8月から9月に現地調査を受けた「富士山」では、12月にイコモスから資産の価値が明確になるような名称変更などについて、追加情報の提出を求められた。ユネスコへの勧告は、この追加情報と同じ内容を含んだ形で出されおり、山梨県富士山保全推進課は「追加情報要請があった場合は丁寧に対応することが大切」と指摘する。
イコモスは来年5月ごろ、ユネスコに評価結果を勧告。それを踏まえ、6月のユネスコ世界遺産委員会で登録の可否が決まる。