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「富岡製糸場と絹産業遺産群」Web

田畑豊かな農村後世に 世界遺産見据え魅力発信 保全へ協議会 伊勢崎・境島村 

大沢正明知事(左)らと富岡製糸場を視察する門司大使(右から2人目)
大沢正明知事(左)らと富岡製糸場を視察する門司大使(右から2人目)

来年6月の世界文化遺産登録を目指す「富岡製糸場と絹産業遺産群」の構成資産、田島弥平旧宅がある伊勢崎市境島村で、住民が大型養蚕農家群を中心とした農村景観の保全に乗り出した。農家や「ぐんま島村蚕種の会」など各種団体の代表者が中心となって協議会を設立、地域に点在する耕作放棄地の解消を推進する。世界遺産登録後を見据え、田畑が広がる農村風景を残していく。

イタリアへの蚕種輸出など江戸時代中期から養蚕で栄えた境島村地区には現在、72軒の大型養蚕家屋が残り、往時の繁栄を伝えている。地域にはかつて桑園が広がっていたが、養蚕の衰退で姿を消し、現在はネギやホウレンソウ畑に姿を変えている。だが、近年は農家の高齢化と後継者不足で耕作放棄地が目立ち、境島村地区の耕作放棄地は7・3ヘクタール(2012年度)に上っている。

同地区では養蚕で栄えた地域の歴史を伝えようと、住民が2005年に「ぐんま島村蚕種の会」を設立して活動。今回は世界文化遺産への登録で増加するとみられる全国からの観光客に地域の魅力を発信するため、「利根川南部地域保全協議会」(田島宥和会長)を設立して、耕作放棄地の再利用を進めることにした。

協議会は境島村と境平塚地区の農家を中心に、地元区長や老人クラブ、蚕種の会会員など28人が加盟。本年度は耕作放棄地の除草作業から始め、来年度以降、農地としての再利用や花の植栽を段階的に進めたい考え。まずは幹線道路沿いなど観光客の往来が見込まれる地域の景観回復を優先する。近く農地所有者に対する説明会を行う方針で、作業開始に向けて準備を急いでいる。

活動には農林水産省の「農地・水保全管理支払交付金」を利用し、16年度まで年間110万円の補助を受ける。4年間で最低でも、地区内6カ所の耕作放棄地を解消する。

◎次期ユネスコ大使 絹産業遺産群視察

ユネスコ日本政府代表部の門司健次郎次期大使が25日、来年年6月の世界文化遺産登録を目指す「富岡製糸場と絹産業遺産群」の4資産を視察した。

この日は田島弥平旧宅、高山社跡、荒船風穴、富岡製糸場の順に見学。高山社跡では、県世界遺産推進課職員から説明を受け、越屋根を載せた養蚕家屋を興味深そうに見て回った。

門司大使は印象に残った資産として、蚕の卵を山の冷風を使って貯蔵した荒船風穴を挙げ、「現場を見たので、説得力を持って日本と世界の絹のつながりを示し、世界遺産登録を実現させたい」と語った。

門司大使は28日、ユネスコ本部のあるパリに出発し、正式に着任。同遺産群についてユネスコとの対応に当たるほか、来夏にカタールで開かれるユネスコ世界遺産委員会に参加し、同遺産群をアピールする。

◎ユネスコ理念に合致

ユネスコの世界遺産登録は、人類の宝ともいえる文化遺産、自然遺産を次世代まで確実に保護、保存していくことに目的がある。登録に当たっては国、自治体、住民がそれぞれ遺産を体系的に保護していることが条件となる。

政府がユネスコに提出した「富岡製糸場と絹産業遺産群」の推薦書にも、構成資産のある地元の民間団体が遺産の啓発も含めて保存運動に関わっていることが記されており、こうした運動も登録審議での評価対象となる。

文化遺産登録では、遺産周辺を緩衝地帯に指定し、環境や景観を保護することも条件。伊勢崎市境島村で住民が中心となって取り組む農村環境の保全整備は、世界遺産の理念に合った取り組みで、登録後の役割も大きい。

富岡製糸場(富岡市) 田島弥平旧宅(伊勢崎市) 高山社跡(藤岡市) 荒船風穴(下仁田町)