養蚕家屋 「和」をもって景観後世に 前橋市 所有者に意向調査
- 掲載日
- 2013/12/13
前橋市総社町山王地区に残る養蚕家屋
養蚕にまつわる美しい景観を残そうと、前橋市は年明けから、大規模な近代養蚕家屋が残る同市総社町山王地区の建物所有者を対象に、保存の意思を尋ねるアンケートを始める。市内では唯一、大型養蚕家屋が集積する地域で、景観保全に向けて市が初めて本格的な調査に乗り出す。「富岡製糸場と絹産業遺産群」の世界文化遺産登録を控え、養蚕を象徴する市内の景観を守り、後世に伝える。
市が調査を委託する県古民家再生協会(高崎市)によると、山王地区の約9ヘクタールに天窓付きの養蚕家屋が17軒、天窓がない養蚕家屋が21軒あるほか、蔵やかしぐね(防風林)が多数確認されている。地区の中央部に位置する県内最古級の寺院跡で、国史跡の「山王廃寺跡」を取り囲むように、江戸末期~大正期を中心とした建造物が立ち並ぶ。
幕末の1854(嘉永7)年に現在の榛東村から移築された地区内最古の養蚕建築や、幕臣の小栗上野介の旧宅を明治末期に購入して移築し、社寺建築を思わせる意匠が施された建物など、それぞれ屋根や装飾に特徴を持つ。
多くの家屋は現在も住居として使われており、市は住民と意見交換しながら保全の方法を探る。市都市計画部は「美しい景観が残る地区として市条例に基づく景観形成重点地区の指定候補になっている」と強調。来年度は建物の構造や耐震性などの調査や、修復に必要な費用算定などの実施を想定している。協会の飯野勝利代表理事は「多くの人が関心を持ち、この地区の今後を考えるためにも調査は必要」と話している。
総社町周辺は1880(明治13)年に水車を動力とした製糸所が設立、組合製糸の「群馬社」が1927(昭和2)年に大規模工場を建設するなど、市内の蚕糸業の中心的役割を担った。
◎保全の機運高まる 県内各地
"絹の国"を象徴する養蚕家屋が消えゆく現状を受け、行政が独自の登録制度を設けたり、住民主体で農村風景の維持に乗り出すなど、県内各地で景観保全の機運が高まっている。
高崎市は本年度、養蚕家屋や町家などを対象に、保全のための無料相談や修復工事費の助成を行う「歴史的景観建造物登録制度」を創設。世界遺産候補の構成資産となる田島弥平旧宅をはじめ、約70軒の大型養蚕家屋がある伊勢崎市境島村では、住民が協議会をつくり、耕作放棄地の再利用に向けて動き出した。
甘楽町は、城下町の景観や明治期の養蚕家屋が残る小幡の町屋地区で30年ぶりに調査を始め、養蚕関連では中之条町赤岩地区に続き、国の重要伝統的建造物群保存地区選定を目指す。
県は登録制度「ぐんま絹遺産」を通じて、重要文化財や史跡以外の物件に対しても改修や宣伝費を助成している。天窓付きの近代養蚕家屋は県の重文や史跡に指定されておらず、県教委は今後、指定を進める方針だ。