《回顧2013年》世界遺産 登録へ最終段階の調査
- 掲載日
- 2013/12/28
イコモスによる富岡製糸場の現地調査=9月
世界文化遺産候補「富岡製糸場と絹産業遺産群」や金井東裏遺跡(渋川市)の甲装着人骨をはじめ、前橋市に誕生した芸術文化施設「アーツ前橋」、東日本大震災と向き合った「震災文学」、新しい音楽監督を迎えた群馬交響楽団など、ことしも県内の文化分野でさまざまな動きが見られた。担当記者が1年を振り返った。
世界文化遺産候補「富岡製糸場と絹産業遺産群」の推薦書が、政府から国連教育科学文化機関(ユネスコ)に提出されたのは1月。9月にはユネスコの諮問を受けて推薦書を審査する国際記念物遺跡会議(イコモス)が、遺産群の4資産を現地調査した。来年の世界遺産登録に向け、最終段階を迎えていることを県民に印象づけた。
イコモスの現地調査は中国の絹専門家が富岡製糸場と田島弥平旧宅、高山社跡、荒船風穴を2日間かけて回り、保存管理状況を確認。調査員は4資産の関連性や、来訪者に絹の生産システムを理解してもらう展示解説の方法に関心を示したという。
国内の世界遺産17件のうち、文化遺産は今夏に登録された富士山など13件あるが、近代中心の産業遺産はまだない。富岡製糸場は1987年まで操業していた製糸工場で、他の3資産も養蚕家屋や蚕種貯蔵施設だ。社寺などの世界遺産とは異なり、見学するだけでは歴史的価値が分かりにくい。このため、絹産業遺産群の価値をPRするシンポジウムや展覧会が開かれ、県内外で注目を集めた。
取材した専門家の多くは、産業遺産は保存だけでなく活用の大切さを強調した。7月に富岡製糸場で開かれた講演では、イタリアの専門家が世界遺産暫定リスト入りした同国の産業遺産を例に「現代において遺産がどういう意味を持つか考えることが大切」とし、地域に残る近代建築をつなぐ博物館構想を示した。
世界遺産登録の可否が審議されるのは来年6月。絹遺産の歴史や今なお息づく蚕糸絹業を知った上で地域振興につなげていくために県や市町村、そして県民は絹遺産、絹産業とどう関わっていけばいいのか、今後も考えていきたい。
(紋谷貴史)