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《論説》 2013年を振り返って 心奮い立つ社会を願う

「新」とは何か。作家の司馬遼太郎は「生命のことなのである」と書いた。生命は時々刻々、新陳代謝しており、総体としては恒常性を保っているが、細胞は常に新しい。〈杉の木はその杉の木でありつつ、一面、代謝からみてきのうの杉の木ではなく、日に新たなりというのが、生命の常態なのである〉(『風塵抄』)。

〈日に新たなり〉は世の事象も同じだろう。「新語・流行語大賞」「今年の漢字」「創作四字熟語」…多彩な視点での世相回顧が続いたが、一年を振り返ると、来年以降につながる胎動や萌芽を印象づける出来事も目立った。どう展開し、社会はどう変わっていくのか。期待だけでなく不安もはらむ。

今年の「十大ニュース」国内1位は7月の参院選だった。自民党が圧勝して衆参の「ねじれ」を解消した。自民好調を支えたのが景気回復への胎動だ。円安株高が進み、大手を中心に企業業績は改善。県内企業も、日銀前橋支店の12月の企業短期経済観測調査(短観)では景況感改善が鮮明となった。

だが、不安要素もある。来年4月の消費税率引き上げだ。生活を直撃する増税である。消費を刺激する賃上げは本格化せず、負担ばかりが増すことに消費者の不満は強い。もし消費不振が長期化するような事態になれば、景気の先行きは危うい。増税後の景気後退を抑えられるか、正念場となろう。

八ツ場ダム建設は、14年度政府予算案に、民主党政権下での見直しなどで凍結されていた本体工事費が5年ぶりに計上され、10月にも工事が始動する見込みとなった。長年にわたり地元を翻弄(ほんろう)してきた事業である。生活再建支援を含め地元の声に応えてほしい。

 夢を膨らませたい。6月に富士山が世界遺産登録され、来年はいよいよ「富岡製糸場と絹産業遺産群」が審議される。事前手続きはすべて終え、世界遺産委員会の審議を待つばかり。県民の願いと地道な努力が結実するか。その時を心待ちにしよう。

もう一つの夢の萌芽が2020年東京五輪の開催決定だ。東京一極集中の加速を懸念する声もあるが、地方への経済波及効果を期待したい。同時に「おもてなし」が脚光を浴びたように、「心」を重んじる風潮を取り戻せるといい。県内でも発覚したが、食材の虚偽表示という倫理観喪失をうかがわせる出来事があっただけに痛感する。

『風塵抄』に中国の古代王朝殷(いん)の湯王の話がある。「苟(まこと)ニ日ニ新(あらた)ナリ/日日新ナリ/又(また)日ニ新ナリ」は、湯王が毎朝顔を洗うための盤に刻んだ言葉。〈顔を一洗して、おれはきのうのおれではないぞ、さらに一洗して、きょうはまたうまれかわったぞ、という素朴な明るさにあふれている〉と司馬はつづる。

〈日に新たなり〉。誰もが日々心を奮い立たせ、生き生きと暮らせる社会は理想だろう。それには何より「希望」が必要だ。そんな社会に少しでも近づくよう祈りながら2013年に別れを告げたい。

2013・12・31

富岡製糸場(富岡市) 田島弥平旧宅(伊勢崎市) 高山社跡(藤岡市) 荒船風穴(下仁田町)